視点

2018年

7月

28日

辺野古「撤回」長引く混乱

 米軍普天間飛行場の辺野古移設を阻止するため、翁長雄志知事が27日、辺野古沿岸の埋め立て承認撤回に向けた手続きに入ると表明した。政府と県の対立は再び激化する。辺野古移設問題をめぐる混乱を長引かせる無益な判断で、県民の厳しい批判は免れない。
 翁長知事は2014年、辺野古移設反対を掲げて初当選し、翌年には仲井真弘多前知事による辺野古沿岸の埋め立て承認を取り消した。国と県は法廷闘争に入り、16年12月、最高裁判決で県の敗訴が確定した。
 政治家として、知事が移設を阻止するという公約実現に邁進(まいしん)したことは理解できるが、三権分立のルールに照らせば、司法判断が出た時点で立ち止まるべきだった。政府は「最高裁判決の趣旨に従い、国と県が互いに協力して埋め立て工事を進めることが求められる」(菅義偉官房長官)と強調する。
 「わが国は法治国家」とたびたび強調する菅氏の発言をかんがみれば、最高裁判決で国が敗れれば、安倍政権は辺野古移設を断念する覚悟だったはずだ。一方で翁長県政は最高裁判決に従い「承認取り消し」を取り消したものの、移設反対の姿勢そのものは変わらず、ついに「撤回」という最後のカードを切るに至った。司法制度に向き合うスタンスが政府とは異なり、自らの政治的主張を貫徹するため、ルールを軽視している印象は拭えない。
 ただ反対派は「埋め立て承認取り消しと撤回は異なる手続きだ。最高裁判決を一律に適用できない」と政府に反論している。再び法廷闘争に突入する可能性が高い。撤回によって工事はいったん止まるが、政府が法的な対抗手段に出れば、短期間で再開されるとの見方も強い。
 辺野古移設は普天間飛行場を抱える宜野湾市民の危険性除去が目的だったはずだが、基地反対派は「県内移設では負担軽減にならない」という論理を振りかざし、工事現場での座り込みなどの抗議行動を続けている。しかし、現在可能な解決策を一歩一歩実現し、積み重ねていく中に真の負担軽減がある。まずは宜野湾市民の安全安心を実現することが優先されるべきだ。
 沖縄に軍事基地が存在する必要性と、軍事基地から派生する事件・事故への対応策は本来、別問題であり、分けて考えなくてはならない。翁長知事や反対派の主張は、両者を混同しているように見える。
 翁長県政は発足後一貫して「辺野古に新基地は造らせない」と主張するが、沖縄を取り巻く国際環境や抑止力の必要性について深みがある議論に欠け、納得できない。撤回時期の判断は11月の知事選を意識している様子もうかがえ、反基地を標ぼうするメディアや、県民の反基地感情に迎合している印象さえある。いずれにせよ泥沼のような対立が今後も続くのは、残念な事態だ。

 

2018年

7月

20日

陸自配備受け入れ 当然の決断

 淡々とやるべきことをやった。18日、石垣島への陸上自衛隊配備計画を事実上受け入れる最終判断を発表した中山義隆市長の記者会見は、そうした印象だった。「英断」などと持ち上げられては、市長も面はゆいのではないか。市民の生命や財産を守ることに責任を持つ市長の立場としては、陸自配備への協力は当然の決断だ。むしろ2015年11月に防衛省から配備の正式打診を受けて以来、16年12月の「配備手手続き開始の了承」を挟み、2年以上も最終的な回答を保留してきたことに賛否が割れるだろう。いずれにせよ協力体制の構築を発表した以上、石垣市はスムーズに配備が実現できるよう全力を尽くしてほしい。

 陸自配備の必要性を市民に最も分かりやすく示している出来事は、石垣市の行政区域である尖閣諸島をめぐる国際情勢だ。尖閣周辺では、中国公船が日本の領海を踏み荒らす光景が日常化している。尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲であり、今のところ中国が軍事力に訴える可能性は低いが、将来的に国際情勢がどう変わるかはわからない。問われているのは自国を自力で守る意思であり、自衛隊配備はその意思を内外に宣言するものだ。

 中国の経済規模は2010年に日本を逆転し、その軍事力も世界有数の規模を誇る。過剰なまでの自信が尖閣諸島や南シナ海に対する領土的野心や、他国への挑発的な言動につながっているのではないか。独裁体制を築いた習近平国家主席は、周辺諸国にとっては威圧的でしかない「中華民族の偉大な復興」をスローガンに掲げており、中国の膨張的な動きは今後も長期間続く可能性が高い。好むと好まざるとに関わらず、八重山が中国の脅威に対する最前線であることは明らかだ。

 自衛隊が配備されると標的になるという懸念の声もあるが、いったん戦争ともなれば、配備の有無を問わず一つの島や地域だけ安全でいられることはない。戦争を起こさないための備えこそ必要であり、それが「抑止力」という広く認められた概念でもある。

 中山市長は配備受け入れの理由として、防衛体制とともに防災体制の構築も挙げた。今や大規模災害の救援や復旧活動に自衛隊の存在は欠かせない。八重山は考古学的な研究で太古から津波の常襲地帯であることが判明している。1771年に襲来した「明和の大津波」から約250年経過し、改めて防災意識の高揚が叫ばれている時でもある。万一の事態の際、島に自衛隊が常駐していることは心強い。

 ただ駐屯地の受け入れは住民にとって初めての経験であり、防衛省に対しては、さまざまな不安に真摯に対応する姿勢が求められることは言うまでもない。説明責任を丁寧に果たし、住民との信頼関係を築くことが何より大事である。

 駐屯地建設予定地の約半分は市有地であり、約23㌶を占める。中山市長は、防衛省から申請があれば売却を市議会に諮る考えを示したが、その市議会は9月に改選を控える。改選後の与野党の勢力図によっては、陸自配備問題は今後もさらに尾を引く可能性がある。陸自配備は市民の安全安心にとどまらず、日本の安全保障に関わっており、この問題で長期にわたる市政の混乱は避けたい。

 

2018年

7月

09日

自然の猛威に身構えよう

 西日本の豪雨は被害が拡大を続けており、8日、死者数は80人以上に達した。政府は非常災害対策本部を設置し、安倍晋三首相は「甚大な被害が広域で生じ続けている。先手先手で被災者支援に当たってほしい」と指示した。

 沖縄では5日に先島諸島で記録的豪雨となり、各地で道路冠水や床下浸水の被害が出たばかりだが、今度は非常に強い台風8号が10日にも襲来し、暴風域に巻き込まれる恐れがある。自然の猛威には常に身構える姿勢を忘れず、万一の備えを固めなくてはならない。

 8日に日本の南に達した台風8号は最大風速55㍍、最大瞬間風速75㍍で、進路によっては大きな被害も予想される。

 戸締りを厳重にする。屋外にある飛ばされそうなものは、片づけるか固定する。仕事は早めに切り上げて帰宅する。懐中電灯の準備や食料の備蓄を行う。非常時の情報源となるラジオを用意する。思いつくだけでも、台風の襲来前にやらなくてはならないことは多い。

 台風接近のニュースを聞くと住民は緊張するが、沖縄は台風の常襲地帯であるため、ともすれば日常茶飯事のように受け流してしまうきらいがなくもない。気の緩みがないようにしたい。

 台風の場合はある程度準備ができるが、災害は突如としてやってくる場合が多い。地震や津波では、日ごろからの防災意識が文字通り生死を分けることもある。

 石垣市は津波対策のため、新庁舎を高台に新築する。また、景観上の問題から、地域によっては実施していた建物の高さ制限を緩和する方向で検討を進めた。

 川平湾などの景観で有名な石垣市川平地区では、住民に対する事前の説明不足などを指摘され、建物の高さ規制緩和はいったん頓挫した。しかし防災対策の重要性が薄れたわけではない。規制緩和に対する住民の理解を得る努力は今後とも必要だ。

 西日本の豪雨では、自衛隊による災害派遣活動が本格化した。今回は警察や消防だけでは対応が難しい災害で、特殊装備を持つ自衛隊が救助、捜索、被災者の支援に至るまで存在感を発揮している。

 石垣島への陸上自衛隊配備は、この先50年、100年先の島の防災対策を考える上でも重要だ。「備えあれば憂いなし」の原点に立ち返り、スムーズな配備実現を求めたい。

 

2018年

7月

05日

変わる県知事選の構図 

 11月18日投開票の県知事選は、自民党の選考委員会が宜野湾市長の佐喜真淳氏を軸に選考作業を進める一方、沖縄観光コンベンションビューロー元会長の安里繁信氏も出馬の意向を示し、候補者擁立に向けた動きが慌ただしくなってきた。
 「オール沖縄」を名乗る県政与党は現職、翁長雄志氏の再選出馬を前提に知事選への準備を進めている。ただ、翁長氏は膵臓がんと闘病中であり、再選出馬が可能な健康状態なのか不安視する声も多い。「慰霊の日」の23日、全戦没者追悼式に出席。県議会では一般質問や代表質問で答弁に立ち、職責を全うする意欲をアピールした。ただ、抗がん治療の影響で痩せ細った姿に、野党・自民党の追及も及び腰になるほどだった。翁長氏自身は現時点で、出馬の有無を明らかにしていない。
 翁長氏の出馬が可能かどうかで、知事選の構図は大きく変わる。「オール沖縄」は保革共同体を建前とするが、保守系政治家として長いキャリアを持ち、人気の高い翁長氏を擁立できなければ、必然的に革新・リベラル色が強まる。一方、自民党は公明党、維新の会との共闘体制を各地の首長選で成功させ、着々と「保守・中道」勢力の結集を進めている。
 前回2014年知事選の「オール沖縄対保守」から、今回は「革新・リベラル対保守・中道」の構図に一変する可能性が強まっており、翁長氏が不出馬なら、この傾向はいっそう強まることになる。
 仲井真弘多前知事の時代まで、知事選では保守系候補が連勝してきたことを考えると、この構図になった場合、保守・中道勢力の勝機が広がる可能性がある。県政与党側もこうした事情を熟知しているため、翁長氏の再選出馬を最優先に考えざるを得ない。
 米軍普天間飛行場の辺野古移設の是非は今回も大きな争点になりそうだが、政府に有利な司法判断が続いていることや、工事が着々と進んでいる状況を考えると「辺野古だけが争点」という雰囲気にはなりにくそうだ。いずれにせよ辺野古だけにこだわらず、今後10年、20年という広い視野で沖縄の将来を考える候補者が求められる。
 米軍基地の負担軽減は沖縄が抱える最大の課題だ。辺野古移設問題は、県政の主張に沖縄のみならず全国的な共感を獲得した上で、政府と連携しながら解決策を探る必要があった。しかし、翁長県政が掲げる「辺野古に新基地を造らせない」という主張は、いずれの条件も満たせなかったと総括するほかない。

 

2018年

6月

13日

どうなる米国のアジア関与

 米朝首脳会談は、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が「朝鮮半島の非核化」、米国のトランプ大統領が北朝鮮の「安全の保証」をそれぞれ約束する共同声明に署名して終了した。米国、北朝鮮双方とも指導者が外交的な得点を内外にアピールした形だが、これで東アジアに「平和が到来した」と欣喜雀躍するのは早計だ。北朝鮮に欺瞞の意図があれば、平和どころか、日本を取り巻く国際環境は一層悪化する懸念すらある。今後とも、北朝鮮の行動を慎重に見極めていく必要がある。

 トランプ氏は会談で、日本人拉致問題を提起したと明らかにした。大きな一歩だが、米国頼みで拉致問題の解決を図るのは限界があり、安倍晋三首相は最終的に金委員長と直接交渉する意向を示している。米朝の急接近が拉致問題の進展にどのような影響を及ぼすかは明らかではないが、日本としてはタイミングを焦ることなく、不必要な譲歩はせず、実利を最優先する姿勢を維持すべきだろう。

 北朝鮮は意思決定過程が不透明な独裁国家であり、共同声明の内容がそのまま無条件で実行されると信じるほうがおかしい。「歴史的な米朝首脳会談の成功を熱い思いで歓迎する」とコメントした韓国の文在寅大統領は、前のめりが過ぎる。

 日本にとっての米国頼みの限界は、さまざまな局面で見え始めている。トランプ大統領はさっそく、米韓軍事演習の中止に言及したが、今後、共同声明で朝鮮半島の平和が達成されたとして、アジアへの関与を一方的に後退させる可能性すらある。トランプ氏が大統領選の当時公言していた在日、在韓米軍の撤退も現実味を帯びるかも知れない。

 それは世界平和より米国自身の利益を優先するという「アメリカ・ファースト」の姿であり、型破りな外交を展開したトランプ氏のしたたかさでもあるが、日本にはこうした事態に対処する準備ができていない。一方、中国とロシアには、朝鮮半島情勢をにらんで連携を強化する動きがある。日本にとって朝鮮半島情勢の急変とは平和の到来どころか、新たな危機の勃発を意味する可能性も胆に銘じるべきだろう。

 米朝首脳の初対面を見ていると、フレンドリーでリラックスした態度を演出したトランプ氏の余裕に対し、金氏は固い表情で終始緊張しているように見えた。両者の代と代という年齢差だけでなく、国家指導者としての格の違いを露呈したような場面だった。それは、そのまま米国と北朝鮮の格の違いでもある。

 両者は決して対等な立場で交渉したわけではなく、北朝鮮は日米の圧力によって瀬戸際に追い詰められ、譲歩せざるを得なかったのが実情だ。金氏が突如として平和の使者に変身したような論評は誤りで、会談や共同声明を実現させた真の立役者は日米同盟である。

 現状では日米両国の連携なしに、アジアの平和は有り得ない。

 

2018年

5月

28日

変幻自在な米政権外交

 6月12日に米朝首脳会談を控えたトランプ米大統領は5月24日、北朝鮮側の敵対的な姿勢を理由に中止を発表し、関係各国に衝撃を与えた。しかし北朝鮮側が態度を軟化させたことを受け、25日には予定通り会談を行う可能性に言及した。大企業トップとして数々の商談を成立させてきた経験を生かした変幻自在な外交に、世界が翻弄されている。

 「私の取り引きのやり方は単純明快だ。狙いを高く定め、押して押して押しまくる」「取り引きをうまく行う能力は生まれつきのものだと思う。一番大事なのはカンだ」―。トランプ氏が自らの信念を明かした主著のタイトルは「アート・オブ・ディール」(取り引きの技術、邦題はトランプ自伝)。自他ともに認める交渉の達人であり、最大の利潤を追求する民間経営の感覚が、最大の国益を追求する外交に生かされていると見ることもできる。トランプ氏自身が就任演説で「アメリカ・ファースト」(米国第一主義)と連呼した通りである。

 職業的外交官や、前例にとらわれがちな政治家が外交を主導する国では考えにくい事態だ。さらに特異なのは、それが米国という世界唯一の超大国の外交であることだ。

 単なる外交ではなく、強大な軍事力と経済力を背景に、相手国に対し、圧倒的な優位に立った上で交渉を展開している。日本など他国には容易に真似できない。

 「トランプ流」は北朝鮮外交だけにとどまらない。対中国では集中的な貿易協議を行い、米国の対中赤字削減の要求を一定程度のませた。自動車に追加関税を課す輸入制限策の検討も指示し、日本も厳しい交渉を迫られそうだ。

 イランに対しては、イランと米欧など6カ国が結んだ核合意からの離脱表明に続き、イランの核放棄に向けた「史上最強」の制裁を続ける方針を表明。在イスラエル米大使館のエルサレム移転も実行した。これらの外交は激しい賛否両論を巻き起こしているものの、少なくとも事なかれ主義や、優柔不断の指導者には到底実現できないものだ。微温的な外交に終始し、結果的に北朝鮮危機を増幅させたオバマ前政権とは対照的である。

 トランプ氏は、少なくとも現時点では、北朝鮮の徹底した非核化を追求するという当初の姿勢からいささかもぶれていない。

 平和は力の裏付けを伴った行動によって初めて実現する。実際に力を行使するかは別問題として、相手国を究極まで追い込むトランプ氏の外交姿勢は、それなりに首尾一貫している。

 日本では米朝首脳会談に期待する声が多いが、悪行の限りを尽くしてきた北朝鮮の「善意」を信じるわけにはいかない。日本としては、米政権が核問題や拉致問題で妥協しない姿勢で臨むことに期待するほかない。日本自身も、北朝鮮の明確な譲歩なしに、圧力の最大化という従来路線の変更はできない。

 米国は、日本にとって対北朝鮮で不可欠な連携相手だが、貿易分野では逆に手ごわい競争相手となる。前例にとらわれない大胆な発想で臨まなければ、企業経営感覚の米大統領とは渡り合えない。

 

2018年

5月

18日

反対派は市民の共感得られぬ

 防衛省が進める石垣島への陸上自衛隊配備計画で、石垣市は16日、配備予定地周辺の開南・於茂登地区を対象に初の意見交換会を開いた。反対派住民らは意見交換会をボイコットしただけでなく、会場となった学校の周辺で抗議行動を展開した。対話を拒否する反対派の姿勢は、到底、市民の共感を得られまい。
 参加者によると、反対派が会場周辺で抗議集会を開いたため、一般の住民が会場に入りくい雰囲気になってしまったという。
 入場するには反対派の前を通らなくてはならないが、冷たい視線を感じながら、あえて会場に向かうには勇気がいる。当初、参加を予定していた住民も数人がこの状況を見て、入場を諦めてしまったという。反対派には自らの主張を訴えるだけでなく、他人の表現の自由に配慮する姿勢があっても良かったのではないか。
 漢那政弘副市長は「静かな雰囲気で、率直に住民の意見を聞きたかった」と話しているが、当然だ。反対派の行動は意見交換会の妨害行為にほかならない。
 地域住民の1人は、抗議行動について「会場まで行くのなら、そのまま中に入って市長に自分の意見をぶつければいいだけの話ではないか。外まで来て『話し合いはしない』と主張する姿は、理屈に合わない」と話す。
 中国の脅威を指摘する陸自配備推進派に対し「中国と話し合うべきだ」と反論している同じ人たちが、中山義隆市長とは話し合いを拒否する。この矛盾を、市民はどう感じるだろうか。
 中山市長は2016年12月、自衛隊配備の手続きを受け入れると表明した。反対派は「市長が受け入れ表明を撤回しなければ話し合いには応じない」とのスタンスを貫いてきた。交渉術としては一つの方法だろうが、受け入れ表明から既に1年以上が経過している。この間の防衛省や中山市長の言動を見ても、今さら受け入れ表明撤回は有り得ない話である。本当に陸自配備を阻止したいのであれば、反対派の戦略は現実からも遊離している。
 反対派住民は、周辺で駐屯地が建設されることで生活環境が激変し、騒音や不慮の事故のリスクも増えるのではないかと懸念しているはずだ。不安は他の市民も十分理解できるし、それは市を通じ、防衛省へもしっかり伝えなくてはならないものだ。中山市長が「地域住民が不安に思っていることを聞かせてほしい」と常々要望している通りである。
 しかし最近の反対派住民を見ると、地域の代表者というより、党派的または政治的な言動が目立つ。本来は純粋な住民運動であるべきものが、特定の政治勢力と結びついてしまっては、市民の共感はますます得られにくくなる。
 陸自配備計画は一地域だけの問題ではなく、政府が日本全体の安全保障に関わる政策として推進している。国防と地域住民の権利をどう両立させるか。それこそ徹底した議論が必要だ。話し合いの拒否は長い目で見て不毛な戦略であり、誰の利益にもならない。

2018年

5月

15日

自立へ基地、経済問題克服を

 きょう5月15日は46回目の復帰記念日である。現在の私たちは空気を吸うような感覚で、日本人としての権利を享受し、国と郷土の歴史や文化に誇りを抱いているが、米軍統治下の戦後27年間、それが許されない時代が存在した。苦難の道を切り開いた先人に感謝する日でありたい。
 復帰後の沖縄の経済発展はめざましかった。沖縄本島だけでなく、離島である宮古、八重山に至るまで膨大な国費と県費が投じられ、道路や施設などのインフラ整備が進んだ。道路、港湾、空港、上下水道などの基盤整備は大幅に進展し、さらに学校校舎から住宅、医療、福祉施設なども財政投資によって質、量ともに改善された。
 近年は一部の離島を除き、高速インターネットを可能にする光ファイバーが張り巡らされた。戦後日本が経済大国化したこともあるが、政府による手厚い沖縄振興策が進んだことは評価できる。各種世論調査でも「復帰して良かった」という思いが県民の大多数を占めている。
 一方で沖縄は宿痾(しゅくあ)とも言うべき米軍基地問題を抱える。県民の負担軽減は、できるところから手をつけなくてはならない。
 まずは宜野湾市の中央部にどっかりと居座る巨大な米軍普天間飛行場を撤去し、新たなステージに立ってさらなる基地の整理縮小を模索すべきだ。現実論を無視した「オールオアナッシング」では物事は前に進まない。名護市辺野古への移設作業を着実に進め、一日も早い普天間飛行場の撤去を実現してほしい。
 米軍基地問題は、自国の防衛の大部分を他国に依存しているという国のあり方に本質がある。本土が沖縄を見下し、基地負担を押し付けているという「構造的差別論」だけでは抜本的な解決にはならない。本土も変わる必要があるが、沖縄も変わらなくてはならない。
 沖縄は現在、観光産業を中心に空前の好況だと言われる。事実、沖縄本島も離島も大勢の観光客でにぎわっている。中華圏からの観光客が目立つが、海外からの観光客は、国の事情で突如として途絶える例もあり、全面的な依存は危険だ。観光業界の現在の活況が、果たして持続可能な経済発展につながっているのか、改めて点検する必要もあろう。
 所得が全国最低水準にとどまっていることも大きな課題だ。自立した沖縄を目指す上で、沖縄の将来のカギを握るのは人材であり、教育水準の向上である。
 全国学力テストで、沖縄の成績は常に下位にある。このような現状に甘んじていいのか。深刻な課題の一つである人手不足も、首都圏などへの人材の流出が一因となっている。逆に、全国から優秀な人材を引き付ける沖縄でなくてはならない。復帰50年の節目に向け、教育のあり方を見直す必要もあろう。

2018年

5月

03日

期待される憲法改正論議

 自民党の改憲草案がまとまり、改憲がいよいよ現実味を帯びつつある中で迎える5月2日の憲法記念日である。米軍基地問題や尖閣諸島問題を抱え、日本の安全保障の「縮図」である沖縄から、改憲の潮流を巻き起こすことには大きな意義がある。
 改憲の焦点は9条だ。3月の党大会で提示された自民党の改憲草案では、戦争放棄などを定めた9条1項と2項を維持しながら、9条の2を追加して、自衛隊を明記した。9条の2は、具体的には以下の内容だ。
 「(1項)前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」
 「(2項)自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する」
 自衛隊を憲法に明記する意義は確かに大きい。地上戦の惨禍を体験した沖縄では、戦後長い間、自衛隊を戦前の日本軍を同一視し、嫌悪する雰囲気が強かった。しかし復帰前後に生まれた新しい世代が社会の中核で活躍するようになった現在、自衛隊に対する偏見はほぼ解消されつつある。全国的にも、一部メディアの世論調査では、自衛隊を「合憲」と答えた国民が7割を超えた。
 ところが憲法の専門書などを読むと、自衛隊の「違憲論」が依然、有力な学説として掲載されている。「専門家」の間では自衛隊が合憲か違憲か、喧々諤々(けんけんがくがく)の議論が果てしなく続いている。こうした非現実的な事態に終止符を打つべきなのは当然だろう。自民党の改憲草案は最初の一歩を刻むものとして評価できる。
 ただ、9条の真の課題は、戦力と交戦権の不保持を定めた2項にある。自衛隊の明記だけにこだわっていては「木を見て森を見ず」のそしりを免れない。
 尖閣諸島周辺で領海侵犯を繰り返す中国、北方領土問題で対立するロシア、核や拉致問題がいまだ解決しない北朝鮮。日本周辺の軍事独裁国家は、軍事力を背景にした威圧を日本に加え続けている。日本は憲法の規定によって、同じ手段で対抗することを許されていないが、結果として米国の力を借りなければ、自分で自分の国を効果的に守ることもできなくなっている。
 外交の切り札に軍事力が存在することは冷厳な事実であり、北朝鮮の核放棄を引き出したのも口先だけの説得ではなく、実力行使も辞さないという米国の決意だった。日本の進路を考える上で、憲法9条がどうあるべきか、国民的議論を喚起する必要があるだろう。
 憲法は米国製とも揶揄され、使われている日本語のレベルに疑問が呈されることもあるが、感動的な文章もある。基本的人権は「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪え、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」というくだりだ。独裁や抑圧と戦ってきた人類の歴史を感じさせる一文だ。
 平和主義、基本的人権の尊重、民主主義は次世代へ受け継ぐべき永久的な価値観であり、改憲は、そうした価値観を支える立憲体制を「長持ち」させるためのメンテナンスでもある。

2018年

4月

28日

南北融和「平和到来」は早計

 「南北融和」をアピールする華やかなパフォーマンスに幻惑され、平和到来を確信するのは早計だ。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は韓国の文在寅大統領は27日、軍事境界線のある板門店(パンムンジョム)で会談。朝鮮半島の非核化を打ち出した。しかし大事なのは言葉ではなく行動だ。日本は今後とも国際社会と連携し、北朝鮮が約束を守るかどうか、厳しく追及する必要がある。
 南北首脳は手をつなぎながら軍事境界線を越えたり、仲睦まじく記念植樹したり、2人だけでベンチに座って話し込んだりした。いかにもカメラを意識した友好の演出であり、形だけのアピール効果は抜群だ。韓国だけでなく、米国、中国も北朝鮮への融和ムードに覆われつつあるように見える。
 しかし真の平和は、それほど簡単に到来するものだろうか。人道主義者を装う北の独裁者の擬態か、はたまた気まぐれの可能性はないのか。国際社会は十分に用心する必要がある。会談の成果はこれから明らかになるだろうが、北朝鮮の過去の非道を忘れたかのように、手放しの歓迎で金委員長を迎える文大統領の言動は、いささか軟弱にも映る。
 北朝鮮は沖縄にも脅威を与えてきた。過去、人工衛星と称する弾道ミサイルを2度にわたって先島上空に発射し、被害を恐れる住民の抗議を一顧だにしなかった。そうした軍事優先の体質が一夜にして変わるとも思えない。北朝鮮の脅威が去ったことを前提に、沖縄の基地縮小を議論するのも早過ぎる。
 今年に入り、北朝鮮が唐突に非核化の意思を表明したのは、トランプ米大統領と安倍晋三首相が主導した「最大限の圧力」路線により、金委員長が瀬戸際まで追い詰められたためだ。北朝鮮への態度が曖昧だったオバマ前大統領とは異なり、トランプ氏は北朝鮮が核を放棄しない限り、軍事的攻撃も辞さない方針を明言。日本は米国と足並みを揃え、国際社会に経済制裁の強化を訴えた。
 金委員長としては政権維持のため、なりふり構わず米国との妥協に舵を切らざるを得なかった。
 核実験やICBM(大陸間弾道弾)の放棄を打ち出した北朝鮮に対し、米国や韓国は歓迎の意を示しているが、日本政府は慎重な姿勢を崩していない。北朝鮮は短・中距離ミサイルの放棄までは踏み込んでおらず、依然、日本への脅威は消えていないからだ。最大の課題である拉致問題も、少なくとも報道されている限りでは全く進展が見られない。
 文大統領と握手する金委員長の視線は、韓国や日本の肩先を越えて米国に向かっている。北朝鮮の「平和ポーズ」は、自国を壊滅させる軍事力を持つ米国だけを意識しているに過ぎない。南北融和が日本の懸念解消につながるか、判断するのはこれからだ。
 日本としては南北首脳会談に関係なく、圧力路線のアクセルを踏み続け、北朝鮮から徹底的な譲歩を引き出さなくてはならない。
 河野外相は「北朝鮮が完全かつ不可逆的、検証可能な核・ミサイルの放棄、拉致問題、拘束者の問題の包括的な解決に向けた行動を取るかどうか見極めていきたい」と述べた。手綱を緩める時ではない。

2018年

4月

07日

知事選、4年前とは一変

 今秋の知事選に向け、自民党県連や経済界関係者などが3月末、候補者選考委員会の初会合を開き、5月までに候補者を決定する方針を決めた。米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に反対する「オール沖縄」勢力からは翁長雄志知事が再選を狙うと見られており、知事選は保守勢力と「オール沖縄」勢力が激突する構図になる可能性が高い。いよいよ知事選に向けた動きが始動する。
 ただ、保守勢力の候補者選びがすんなりと進むかどうかは見通せない。これまでも現職国会議員や著名経済人などの名前が浮かんでは消え、現時点で衆目の一致する人物が見当たらない。翁長知事の県民的人気が依然高いとされる中、「勝てる候補」擁立は最初から難航が予想されていた。現実にも「出たい人」「出したい人」が入り乱れている状況のようだ。
 しかし、翁長知事が誕生した2014年と現在では、選挙情勢が一変した。
 翁長知事初当選からしばらくは、国政、県政の主要選挙で「オール沖縄」勢力が連戦連勝。まさに沖縄を席巻する勢いだった。
 しかし、翁長知事最大の公約である辺野古移設の阻止は、なかなか前に進まなかった。安倍政権は県民の基地負担軽減に向け、移設を着実に進める方針を堅持。辺野古沿岸埋め立て承認の取り消しは最高裁で違法とされ、翁長知事は裁判闘争でも敗れた。移設工事は着実に進んでおり、翁長知事は公約を達成できないまま任期満了を迎えようとしている。
 こうした中、「オール沖縄」勢力は退潮傾向が顕著になった。昨年の衆院選では、4区で自民党候補が「オール沖縄」候補を初めて撃破。他の3区では「オール沖縄」候補に軍配が上がったものの、鉄壁に風穴が開いた。今年2月の名護市長選では、移設の是非を争点とした選挙としては翁長知事の誕生以来初めて、辺野古反対派が敗れた。
 辺野古反対派の政治家や経済人などで組織する「オール沖縄会議」からは、金秀グループの呉屋守将会長が共同代表辞任を発表したほか「かりゆしグループ」も脱退を決めた。「オール沖縄」勢力の組織力低下が鮮明になっている。
 辺野古反対を旗印に、保守、革新の共同体を標ぼうした「オール沖縄」勢力は、名実ともに終焉(しゅうえん)に向かっていると見るべきだろう。辺野古阻止に向けた実効性ある道筋や、国民が納得できる具体的な安全保障政策の対案を持たなかったことが要因だ。
 翁長知事は今後、辺野古阻止に向けた切り札として、辺野古沿岸埋め立て承認の「撤回」に踏み切ると見られるが、国が裁判闘争に訴えれば、暫定的に工事が止まるだけに終わるとの見方もある。「オール沖縄」勢力そのものが存続できるかの正念場だろう。
 前回知事選と違い、保守勢力は自民党だけでなく、公明、維新も巻き込んだ選挙協力体制を構築しつつある。既に3者の連携で名護市長選、石垣市長選を勝ち抜いた。県内の政界再編を見据えていると見られる維新のこうした動きは、知事選で台風の目になるかも知れない。
 翁長知事は精密検査のため検査入院した。退院時は自ら健康状態について説明する意向のようだ。検査結果によっては健康不安説が浮上しかねず、知事選にも影響が出る可能性がある。

 

2018年

4月

01日

「沖縄本島版」2年目に突入

 八重山日報社が昨年4月、「沖縄本島版」の発刊に踏み切ってからきょう1日で1年を迎える。沖縄の言論に新たな風を吹き込みたいと意気込み、社員一同が無我夢中で努力するうち、あっという間に時間が過ぎたという感覚である。ただ今後の道のりは極めて厳しい。

 「沖縄本島版」は、県紙2紙を中心とした既存のメディアに加え、より多様な言論を発信する媒体が必要だとする読者の熱い「ラブコール」に応じて登場した。

 インターネットが発達した現在、新聞は斜陽産業とも呼ばれ、現状維持さえ危ぶまれている業種だ。沖縄本島で新規に新聞社を立ち上げようとすると膨大な投資が必要だが、見返りがほとんど望めない現状を考えると、現実的にそれは不可能と言っていい。そのため、八重山を中心に40年の歴史を持つ本紙に「沖縄本島進出」の白羽の矢が立った。

 沖縄最大の課題は言うまでもなく米軍基地負担の軽減だ。しかし、これまで沖縄本島を中心に発信されてきた言論は、基地負担の大きさを強調するあまり、日本の平和や安全を守るため、米軍や自衛隊が果たしてきた役割を必ずしも重視してこなかったという指摘があった。

 基地負担軽減を強力に進めるべきとの主張に異論はない。だが一方で、沖縄に迫る中国の軍事的脅威も直視すべきだと求める意見も、いわゆる保守派の人たちを中心に強かった。尖閣諸島を抱える八重山の地元紙として本紙に求められたのは、これまで無視または軽視されてきた県民の声をすくい上げる役割である。本紙はこの1年、県民がこれまでほとんど接する機会を持てなかったニュースや言論を、積極的に紹介しようと努めてきた。

 沖縄には沖縄本島、宮古、八重山をそれぞれ拠点とする6紙の日刊紙があるが、本紙はその中でも最も脆弱な組織であり、沖縄本島進出には多大な困難が伴った。しかし全国紙である産経新聞との記事交換や、進んで執筆を申し出てくれた多彩なコラムニストなど、内外からの言葉に尽くせぬ貴重なご協力を頂いた。

 この1年間で気づいたことがある。「沖縄に新たな新聞が必要だ」という声は、むしろ本土の人たちのほうが強いということだ。県民の多くは沖縄メディアの現状を肯定し、特に変革の必要性を感じていないようでもある。沖縄メディアでは、日ごろ「本土は沖縄の問題に無関心」という主張が一般的だが、本土の人たちはむしろ県民以上に冷静に、沖縄の置かれた状況を注視している。沖縄と本土は言うまでもなく運命共同体であり、沖縄の問題は本土にとって、決して他人事ではないからだ。

 自分の姿というものは、鏡の前で一歩引かないと案外見えない。私たちこそ本土の思いを理解する努力を深めるべきかも知れない。

 2年目に突入する本紙だが、営業体制の不備、取材記者の資質など、乗り越えるべき課題は山積しており、いまだに理想とする報道体制を実現できていないのも事実である。県民から強い支持を受けるようになり、私たち自身も死に物狂いにならなければ、沖縄本島版は存続できない。

 今年を抜本的な改革の1年と位置づけ、期待に応えられる紙面づくりへ、一丸となって邁進(まいしん)したい。

 

2018年

3月

12日

陸自配備は容認を明確に

 石垣島への陸上自衛隊配備計画などが問われた石垣市長選では、現職、中山義隆氏が3選を果たした。同じ保守系の砂川利勝氏が出馬し、保守分裂選挙となったことで当初「中山氏の当選は厳しいのでは」と見られていたが、ふたを開けてみれば予想外の圧勝で、砂川氏、革新系の宮良操氏を寄せつけなかった。強固な自公選挙協力体制と、中山氏の個人的な人気が勝敗を大きく左右したと見られる。

 中山氏は初当選時から若者を中心とした無党派層に根強い支持があった。若さと爽(さわ)やかなルックスで、巧みなイメージ戦略を展開し、石垣市の「劇場型政治」の幕を開けた。

 経済振興を政策の柱に据え、好調な観光を例に「流れを止めるな」とアピールした。子育て支援策などの浸透にも力を入れた。自民党本部の支援や指導もあっただろうが、宣伝戦では常に他の2候補の一歩先を行っていた。八重山日報が期日前投票で実施した出口調査では、無党派層の過半数の支持を得るには至らなかったが、3氏の中で支持率はトップ。砂川氏の出馬で目減りした保守票を、無党派層の票がカバーした格好だ。

 宮良氏は、市民の一部にくすぶる陸自配備への不安感を、うまく得票につなげられなかった。砂川氏は、保守を分裂させてまで出馬する「大義」を支持層に納得させ切れなかった。いずれも「劇場型政治」の演出力で中山氏に引けを取った。

 選挙に強いことは、政治家にとって何よりの強みである。ただ中山氏に対しては、支持者の中ですら強い不満や不安の声がある。宮良氏や砂川氏は選挙戦で「中山氏は市民の声を聞かず、独断で行政運営を進めている」と批判を強めていた。今選挙が突如として保守分裂選挙となったこと自体、一見盤石に見える中山市政が、内部に意外なもろさを抱えていることを示している。

 本紙インタビューで中山氏は、保守分裂選挙となった責任を問う声があることについて「分裂ではなく、話し合いで解決できるものだったと思う」と述べたが、特に反省の弁はなかった。3選を全面的な市民の信任と解釈し、強気一辺倒の行政運営で謙虚さを欠けば、思わぬしっぺ返しに遭いかねない。分裂選挙をむしろ好機とし、不満を抱く支持層との丁寧な対話に務めてほしい。

 陸自配備計画に対しては、地元の市長として受け入れか拒否かの二者択一しかない。中山氏は受け入れの可否を明言せず選挙戦に突入したものの、落選した2氏は現計画に対しては反対姿勢を明確にしていた。この結果から、少なくとも配備の必要性を認める一定の民意は示されたと解すべきだ。尖閣諸島を抱える市の責任ある首長として、中山氏は早期に配備容認の姿勢を明確にしてほしい。

 中山氏を支えた自民、公明、維新のスクラムは名護市長選に続き、石垣市長選でも結果を出した。今秋の知事選での県政奪還に向け、また一つ大きな布石を打ったことになる。

 一方、「オール沖縄」を名乗る革新陣営は、訴えの根幹である安全保障問題をめぐり、辺野古移設反対、自衛隊配備反対を訴えた選挙で立て続けに敗れた。早急な選挙戦略の立て直しが必要だ。

 

2018年

2月

09日

名護市長選、夢語った渡具知氏

 名護市長選で、自民、公明が推薦する新人の渡具知武豊氏が現職、稲嶺進氏を破って初当選を果たした。渡具知氏は8日の市長就任式で「『輝く名護市』の実現に向けて共に頑張っていこう」と職員に呼び掛け、新たなまちづくりに意欲を示した。辺野古移設をめぐる市民の「分断」克服の決意も語っており、反基地のイデオロギー闘争に終始した前市政とは一線を画す考えだ。新市長の手腕に期待したい。

 渡具知氏の勝因は、有権者に夢のある新生名護市のビジョンを示したことだ。子育て支援策を政策の柱に据え、子ども医療費、給食費、保育料の無料化を訴えた。ごみの分別が煩雑すぎるとして、身近な生活の問題にも目を向けた。

 米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する稲嶺市政が、基地再編に向けた国の交付金を拒否しているため、100億円以上の損失が発生していると厳しく批判。稲嶺氏と対照的に、国と連携できる政治家として自身を強くアピールした。

 対する稲嶺氏は「辺野古新基地ができるとオスプレイが百機配備される」などと、基地問題に絡み、市民を恫喝するような物言いが目立った。

 辺野古移設反対の姿勢は鮮明だが、基地問題に政策の重点を置き過ぎ、どのように地域振興を進めていくのかが見えづらかった。渡具知氏が辺野古移設の是非に触れないことを批判しながら、稲嶺氏自身も名護市民の率直な疑問に答えることができなかった。経済政策としてパンダ誘致を打ち出したのはいかにも唐突で、選挙戦略としては逆効果だったとさえ思える。

 市民に夢や希望を語った渡具知氏と、恐怖を語った稲嶺氏。その明暗が勝敗を分けたのではないか。

 辺野古移設が唯一の争点であるかのような報道も目立ったが、実際には、移設は数ある争点の一つだった。市長選は辺野古移設の市民投票ではないからだ。市民は市政の課題を多角的に捉え、バランスの取れた判断をしたということだろう。

 昨年10月の衆院選では、沖縄4区で辺野古移設を容認する西銘恒三郎氏が勝利した。2014年の知事選以来、国政選挙で辺野古容認の候補が当選するのは初めてで「オール沖縄」に風穴が開いた出来事だった。名護市長選も、こうした流れの延長線上にある。イデオロギー的な反基地運動が行き詰まりつつあることを示しているのだ。

 「辺野古反対」だけでは何の展望もなく、それを具体的な政策と呼ぶことはできない。基地反対を訴えるなら、同時に安全保障や地域振興にも責任を持つ姿勢を示してこそ説得力がある。

 しかし「オール沖縄」勢力は、そこを決定的に欠く。「辺野古反対」を県政の柱に据えるとさえ公言する翁長雄志知事の政治姿勢を、重ねて疑問視せざるを得ない。

 今選挙がもたらした重要な影響は、辺野古移設の当事者である宜野湾市、名護市がともに保守市政となり、移設を推進する安倍政権との連携が強化されたことだ。安全保障、基地負担軽減、地域振興のすべてを両立させることを目指す政権の姿勢が、市民から一定の評価を得た。

 辺野古移設はあくまで宜野湾市民の負担軽減策だ。その原点に改めて立ち返り、着実に移設工事を進展させ、普天間飛行場の早期撤去を実現する必要がある。

 

2017年

12月

23日

深刻化する一方の人手不足

 人手不足が叫ばれて久しい。数字の上でも裏付けるように、沖縄の新規求人倍率は10月、復帰後初めて2倍を超え、2・06倍となった。有効求人倍率も全国平均よりは低いものの、2016年10月以降、毎月1倍以上をキープする状況が続いている。
 日本商工会議所は「この1年の中小企業の悩みは人手不足だった」として、今年の漢字に「人」を選んだ。少数精鋭の人材で業績向上を図らなくてはならない中小企業にとって、人手不足は文字通り致命的である。
 2017年の出生数は、過去最少の94万1千人と見られ、2年続けて100万人を割り込む見通しになった。子どもの数が年々少なくなり、日本の人口そのものが縮小傾向にある中で、働き手の数も減りつつある。しかしより切実な問題は、人材の質だ。
 働きたい人は大勢いるし、企業の採用意欲も高いが、真に必要とされる人材は少ない。いくら働き手の数を増やしても、それが企業の求める能力を備える人材でなければ、業績向上は図れない。沖縄に限らず、全国の中小企業が抱える根本的な問題は、単に人材の確保なのではなく「優秀な人材の確保」なのである。
 労働市場は数字だけ見れば売り手市場で、一見、空前の好景気に沸いているように見える。しかし数字とは裏腹に、実際には多くの中小企業が人材の問題で苦境に陥っており、とても好景気を実感できる状況にはない。
 要因の一つには、多くの優秀な人材が首都圏に流出してしまう現状がある。賃金や職場環境で厚待遇を提供する本土企業に対し、沖縄の中小企業は太刀打ちできない。待遇の良さだけではない「夢」を掲げられる、魅力ある企業づくりが必要だ。
 そもそも沖縄は他府県に比べ、人材育成が遅れているという指摘もある。それが端的に表れているのは学力低迷の問題だ。小中学生が毎年、全国学力テストで下位に甘んじている現状を打開しなければ、沖縄の未来は開けない。改めて教育の重要性を見直す必要がある。
 沖縄に残った少数の人材を県内で奪い合えば、必然的に大企業に人材が集中し、中小企業は恒常的な人手不足にあえぐことになる。企業相互で、求められる分野の人材を派遣する提携関係の構築はできないだろうか。
 沖縄振興開発金融公庫は11月、「拡大する沖縄経済の下で深刻化する人手不足」と題するレポートを公表し、人手不足への対応策として①機械化やICT(情報通信技術)の導入②限られた人材の能力を最大限に発揮させる企業経営③人材の定着に向けた工夫―などを提言した。
 時代の最先端に高い関心を抱きつつ、従業員のモチベーションを高め、能力を最大限に発揮できる職場環境づくりが経営者に求められている。

 

2017年

11月

18日

日米共同使用と負担軽減

 沖縄の基地負担軽減に向けた具体的な一歩となるかも知れない。在沖米軍の海兵隊撤退後、防衛省が来年3月に創設する水陸機動団(日本版海兵隊)を沖縄に配備する可能性について、在沖縄米軍トップを兼ねるニコルソン在日米海兵隊司令官(中将)が16日、「理解できる」との認識を示した。
 小野寺五典防衛相は17日、「まだ何も決まっていない」と述べたが、ニコルソン氏は私案としながら、キャンプ・ハンセンかシュワブへの配備を示唆しており、現実性は高いと言える。
 米軍撤退後の沖縄に自衛隊を配備することは、沖縄を守る実力を維持しながら県民の負担軽減を進める一つの現実的方策だ。日米両政府は、将来的な実現に向けて積極的に検討を進めるべきだ。
 基地負担には2種類ある。一つは基地そのものから派生する騒音や危険性などの問題、もう一つは米兵が絡む事件・事故だ。前者の負担を軽減するためには日米両政府の関与が不可欠である。米軍普天間飛行場の辺野古移設をはじめ、両政府の合意に基づいた作業が進んでいる。基地周辺住民の救済策も必要だ。
 後者の問題は、事件・事故を起こした米兵が不当に保護される可能性があるという日米地位協定の欠陥が引き起こしている。配備されるのが米軍ではなく自衛隊であれば、米兵の「逃げ得」はなくなる。この意義は極めて大きい。
 今月、与那国島に配備された陸上自衛隊沿岸監視隊の隊員が、大阪府の温泉で女児を盗撮したとして大阪府警に書類送検された。今後は自衛隊の内部でも厳しい処分が下るはずだ。
 これが米兵であれば、犯行の態様によっては日米地位協定で日本側の捜査が阻まれていた可能性があった。
 現在、元米軍属による女性殺害事件の裁判員裁判が那覇地裁で進んでいる。この事件では、日米地位協定による大きな影響はなかった。しかし県民からは「米軍基地あるがゆえの犯罪」と激しい憤りの声が上がっている。米軍絡みの事件・事故は、日本人の国民感情として到底容認できない。
 自衛隊員の事件も言語道断だが、米兵と違い、自衛隊員の事件・事故はいかなる場合も国内法によって厳正に処断されることを改めて示した。自衛隊員の綱紀粛正や、さらなる事件・事故の抑止力につながることは間違いない。日本人にとって「ブラックボックス」化している米軍との大きな違いだ。
 県民の間でも自衛隊の役割に対する理解は進んでいる。与那国島では、配備に伴って行われた住民投票で、配備賛成が多数を占めた。石垣島への配備計画をめぐっては反対運動も起きているが、推進派も「島を守るために自衛隊は必要」と誘致を訴えており、衆院選での得票は推進派が反対派を上回った。これが自衛隊ではなく米軍であれば、いかに安全保障のためとはいえ、地元の理解を得るのは不可能である。
 米軍に代わって自衛隊を配備するのは基地負担軽減にならないという批判の声もある。だが、そうした意見は自衛隊と米軍の本質的な違いに関する理解が足りない。
 ニコルソン氏は米軍基地の日米共同使用にも期待感を示した。これも自衛隊の役割強化に向けた前向きな動きだ。

2017年

11月

16日

支持される野党の「条件」 

 希望の党の小池百合子代表(東京都知事)が辞任の意向を表明した。自公に代わる政権交代の受け皿を目指して9月に党代表に就任したが、わずか2カ月足らずでの退陣となる。一時は国民的な期待を一身に集めた小池氏が国政から距離を置く姿勢を示したことは、希望の党の党勢にも影響を与えかねず、野党の混迷に一層拍車が掛かる可能性がある。
 巨大与党の自公に対し、野党は小勢力が乱立する状況で、しかも野党間に政策の大きな隔たりがあり、軸となる勢力が育たない。米国のような2大政党制を期待する国民も多いが、当分は、自民党党内の有力者が総裁選で競い合う「疑似政権交代」の可能性しかないようだ。
 小池氏が失敗した要因は準備不足に尽きる。衆院選まで時間がない中で、練り上げた公約や魅力ある候補者を提示できず、民進党の丸のみで乗り切ろうとした姿勢が失望につながった。自公に対する「保守・中道」の対立軸という小池氏の目標は妥当なものだったが、希望の党が受け皿になるのは時期尚早だったということである。
 立憲民主党が野党第一党になったが、安全保障政策で安保法廃止を訴えるなど、共産党や社民党との相違が今ひとつ不鮮明で、今後、どこまで党勢を拡大できるかは未知数だ。
 野党の混迷が続くことは、沖縄にとっても望ましい状況ではない。
 10月の衆院選でも米軍普天間飛行場の辺野古移設が争点の一つになったが、移設に反対する「反自公」票はほとんど、極端な「反基地」を掲げる共産党や社民党支持に向かった。
 結果として選挙区では共産党や社民党の候補が勝ち抜き、選挙後、辺野古移設問題にとどまらず、内政、外構のさまざまな課題で自公政権と鋭く対立している。一般的に言われる「沖縄対本土」の対立とは、実は「自公対共産・社民」の対立にほかならず、両者の妥協点は、ほとんど見いだせない。もし沖縄で「保守・中道」の対抗軸が育っていれば、違った展開になっていたかも知れない。
 自民党の政治家として長く活動してきた翁長雄志知事も「オール沖縄」を名乗り、もともと自公に対する保守・中道の対抗軸として期待を集めたはずだが、この3年、ほとんど独自色を発揮できていない。後ろ盾となる勢力が「革新」政党しかないためで、自民党からは「翁長革新県政」と揶揄されるに至っている。
 本土、沖縄にかかわりなく、国民に支持される野党をつくるには、従来の政権とは異なる明確な世界観に基づいた公約を示し、力量のある候補者を掘り起こさなくてはならない。
 公約はデスクワークで生まれるものではなく、それは日々の生活から切実な実感として沸き上がる国民の声だ。声なき声を拾うためにも、政治家は常に地域と接点を持たなくてはならない。
 実業家から転身した米国のトランプ大統領のように、政治経験の有無は必ずしも抜きん出た政治家の条件ではない。さまざまな分野から、候補者をうまくスカウトする仕組みづくりも野党の課題になってくる。これも、まさに希望の党の「失敗」を教訓にすべき点だ。

2017年

11月

11日

中国、太平洋支配の野心あらわ

 中国の習近平国家主席は9日、トランプ米大統領との首脳会談後、共同記者会見で「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」と発言した。
 中国軍関係者は、かつて米国の太平洋軍総司令官に対し「ハワイから東は米国、西は中国で分割管理しよう」と持ちかけていた。今回の発言もこの趣旨に沿ったものであることは明白だ。
 言うまでもなく太平洋の西側には尖閣諸島を含む八重山諸島があり、沖縄があり、日本本土がある。太平洋への進出加速を予言するかのような習氏の発言は、沖縄に対する領土的野心を改めてあらわにしたも同然だ。尖閣諸島奪取を目指す中国の狙いが、局地的な資源争奪などではなく、究極的には太平洋の支配権獲得であることも暴露した。
 問題なのは、習氏の発言が米大統領の面前だったことだ。米国との直接交渉で日米を切り離し、米国の不干渉を確約させた上で、尖閣を奪取したいという思惑が透けて見える。
 中国は米国との関係を「新型大国関係」と名付け、いわば米国と一対一の場で中国主導の新国際秩序を承認させようとした。米国はオバマ前政権時代、この考えを事実上拒否したが、訪中したトランプ氏への厚遇ぶりは、中国がこうした思惑をまだ捨てていないことを意味するようだ。
 日本政府が2012年に尖閣諸島を国有化して以降、中国の尖閣奪取に向けた戦略はほぼ一貫している。公船を頻繁に領海侵入させ、尖閣が中国の領土であることを内外にアピールするというものだ。
 しかし日本側は海保の巡視船がガードを固めており、八重山の漁業者が尖閣周辺海域に出漁する際は警護に当たるなど、実効支配を死守している。
 ところが今月5日からのトランプ氏の訪日期間中、中国公船は尖閣周辺の接続水域に姿を見せなかった。しかしトランプ氏が7日午前に離日すると、その日の午後には、すかさず4隻が接続水域に入っている。米国の顔色をうかがうような動きである。
 中国にとって気がかりなのは日米同盟だ。日本から最終的に尖閣諸島を奪取できるかどうかは、米国の意向しだいだと中国が考えている可能性を示唆している。
 安倍晋三首相とトランプ大統領は、両国共通の外交方針として「自由で開かれたアジア太平洋戦略」を打ち出した。自由と民主主義の価値観を共有する国々の連携で、中国主導の新国際秩序を阻止しようというものだ。これに対し、中国は自国中心の経済圏構想「一帯一路」を「人類共同体構想」などと宣伝している。
 20世紀に続き、21世紀の世界も、自由主義の国々と独裁国家群がせめぎ合う場となるかも知れない。
 尖閣諸島そして沖縄は、いやおうなしにその最前線に位置することになる。尖閣諸島を守れるかどうかは、単に日本の領土にとどまらず、戦後日本が信奉してきた自由や民主主義といった価値観を守れるかどうかにも関わってくる。
 ただ武力衝突は誰も望まない。沖縄では、地方自治体や民間レベルで日中交流を促す動きが盛んだ。翁長雄志知事は福建省との友好締結20周年で訪中しており、石垣市でも日中友好締結40周年、世界平和の鐘設置30周年を記念して中国大使を招へいする動きがある。友好の努力は尽くすべきだ。
 それとは別に石垣島への自衛隊配備計画は、領土を守る国民の決意を示す上で重要だ。早期配備を実現することが、無用な紛争を防ぐ手立てとなる。

2017年

11月

07日

平和と繁栄支える同盟

 来日したトランプ米大統領と安倍晋三首相は共同記者会見で「日米両首脳が、これだけ緊密だったことはない」と強調した。日米両首脳は前代未聞とも呼ぶべき蜜月ぶりをアピールした。
 特に安全保障面で、日米同盟の堅固さを示した。日本にとって最大限の外交的成果だったはずだ。
 一方でトランプ氏は、米国製の武器を購入するよう安倍首相にクギを刺した。ビジネスマンの横顔を持つ大統領ならではである。外交は一筋縄ではいかないことを改めて実感させたシーンだった。
 安倍政権のトランプ氏に対する厚遇ぶりは、一つの仮借なき現実を浮き彫りにしている。それは、日本の平和と繁栄は日米同盟によって支えられているということだ。
 ゴルフ外交まで行って親密さを演出した2人の視線の先には北朝鮮、さらには中国がある。日本への核攻撃すら示唆する北朝鮮、沖縄に対する領土的野心を公言する中国といった国々が日本を取り囲んでいる。こうした危機に、日本は単独で対処できない「弱い国」である。
 日本が将来にわたって民主的で自由な政治体制を維持していくには、同じ価値観を共有する超大国である米国と共同歩調を取るほか、生き残る道はない。安倍政権の外交はそのことを徹底的に熟知した上で展開されているようだ。
 米国に対する上目遣いのような外交には「対米追従」という批判の声もある。将来的には米国頼みでない安全保障体制を確立しなくてはならない。それには大前提として憲法改正論議が欠かせないだろう。
 日米首脳会談では従来、沖縄に関し、日米安保条約が尖閣諸島に適用されること、米軍普天間飛行場の辺野古移設を推進することを慣例のように確認してきた。共同記者会見で今回は言及がなかったが、両国間で当然のことという認識が共有され、改めて言及する必要性もなくなったということだろう。
 トランプ大統領の来日期間中、中国公船は尖閣諸島周辺の接続水域に一度も姿を現していない。中国に対する牽制(けんせい)効果が表れた可能性がある。
 中国は特に尖閣問題で、日本に無遠慮とも言える態度を示す。しかし、軍事力に勝る米国に対しては、常に一歩引く姿勢だ。日本は、まさに「米国に守ってもらっている」。これも現実である。
 辺野古移設をめぐっては、6日、沖縄防衛局が新たな護岸工事に着手した。翁長雄志知事は「辺野古に新たな基地を造らせないという県民との約束を実現する」と徹底抗戦の構えを見せている。
 しかし、基地反対派は普天間飛行場の撤去だけでなく、自衛隊の増強にも反対している。米海兵隊の沖縄撤退後、誰がどのように沖縄を守るのかという将来展望に欠けている。
 移設工事を阻止するため、基地反対派は県民に対し、工事現場への集結を呼び掛けている。しかし現実には、呼応する県民は少ない。ただ基地に反対するだけという訴えの非現実性を、県民は見抜いているからだ。
 辺野古移設をはじめ、現行の日米合意に基づいた基地負担軽減策を着実に完了させた上で「第二段階」としての基地負担軽減策を模索すべきだ。

2017年

11月

03日

トランプ米大統領が初来日へ

 トランプ米大統領が5日から就任後初めて来日し、安倍晋三首相との首脳会談で北朝鮮問題などを協議する。日米同盟は日本の平和と繁栄を外交的に担保する役割を果たしている。両国の強固な絆を再確認する場にしてほしい。
 米軍基地問題を抱える沖縄では、トランプ氏来日への期待感がさほど高いとは言えない。両国ともに、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を推進する方針を堅持しているが、県内では辺野古移設が新たな基地負担であるという誤解が根強いからだ。
 実際には、辺野古移設は基地負担軽減策の一環であり、普天間飛行場の撤去に向け、両国が現時点で唯一、合意している「解決策」でもある。
 トランプ氏は大統領選で、日本に対し米軍駐留経費の全額負担を要求し、日本が応じない場合の基地撤去をほのめかしたことがあった。沖縄でも基地反対派を中心に期待感が高まりかけた。
 しかし、トランプ氏が大統領就任後にトーンダウンするや、たちまち話題にする人もいなくなった。沖縄の安全保障を真剣に再考する好機だったと思うが、「熱しやすく、冷めやすく」では、沖縄から実のある提案はできまい。
 日米首脳会談の大きなテーマとなる北朝鮮問題について、安倍晋三首相は「国際社会と共に圧力を最大限まで高め、北朝鮮から対話をしてほしいと言ってくる状況をつくらなければならない」と強調した。日米で認識を共有したい。
 トランプ氏は、北朝鮮による拉致被害者の家族にも面会する。国連総会でトランプ氏が拉致問題に触れたことも意義深かった。面会が拉致問題に対する国際的な関心喚起への一歩となることが期待される。
 米国内では支持率低下などの問題が報じられているトランプ氏だが、自由闊達(かったつ)な言動を見ていると、現在のところ「政治家ずれ」していないことがプラスに働いているのではないか。
 対北朝鮮では、大統領がツイッターで過激な脅し文句を連発する一方、閣僚たちは繰り返し平和的解決の必要性を強調し、鮮やかとも言える硬軟の使い分けを見せている。
 テロ対策で打ち出した国境の壁建設、経済活性化に向けた法人税減税など、実現に向けたハードルは高いとはいえ、有言実行の姿勢も崩していない。
 自身に批判的なメディアを「フェイクニュース」と呼ぶのは勇み足の感もあるが、日米を問わず、トランプ氏に対しては必要以上にネガティブなニュースばかり氾濫しているのも事実だ。
 トランプ氏の日本滞在中、日米首脳の「ゴルフ外交」が展開される。安倍氏とトランプ氏は、個人的関係の良好さが何かとクローズアップされがちだ。ゴルフ外交は、他国に向けて親密さをアピールするパフォーマンスの意味もあるだろう。
 外交は国益を懸けたせめぎ合いの場であり、首脳の個人的関係だけで全てがうまくいくわけはない。米国の一方的なTPP脱退など、日本側がトランプ政権に振り回されている現実もあり、過大な期待は禁物だ。
 とはいえ、両首脳の関係が深まることが、日本外交にとって大きなチャンスであることに変わりはない。ゴルフといえども、日本の国益につながる重要なツールである。

 

2017年

10月

27日

改憲、沖縄から議論発信を

 憲法改正の議論が現実味を帯びてきた。衆院選で、安倍政権下での憲法改正に賛同する与党や希望の党、日本維新の会などの改憲勢力が、憲法改正の発議に必要な衆院定数の3分の2以上を獲得したためだ。
 沖縄は米軍基地問題や尖閣諸島問題に悩まされ、日本の安全保障が抱える矛盾を体現している。沖縄の視点から、憲法9条改正に向けた潮流を起こしていく好機だ。
 残念ながら沖縄では、9条をめぐる論議が活発化しているとは言えない。むしろ9条改正は「平和憲法」の破壊につながるとの誤解が横行しているのではないか。
 一部の政治家やメディアが言うような「戦争のできる国」を目指す乱暴な改憲論議は存在しない。そうではなく、沖縄に象徴される安全保障体制のひずみを解決するための知恵こそ改憲である。
 言うまでもなく9条は、戦争放棄と戦力の不保持を定めている。そのため日米安保条約に基づき、日本を他国の侵略から守る役割は実質的に在日米軍が担い、自衛隊は補完勢力でしかなかった。
 しかし、在日米軍専用施設の70%が集中する沖縄では、米軍絡みの事件・事故が絶えない。しかも日米地位協定によって日本側の捜査権は制限され、日本人に比べ米軍が優遇されるという不条理な状況が続く。
 日米同盟が日本の平和と安全に貢献してきたことは事実だが、他国に自国を防衛してもらう「いびつ」な体制のツケを、戦後一貫して沖縄県民が支払わされてきたのである。
 9条改正によって自衛隊を憲法に明記し、自国を守る戦力として位置付ける。米国だけに頼らない安全保障体制を目指す。それが米軍の整理縮小を進める上で画期的な第一歩になる。県民が将来、米軍基地負担のくびきから逃れたいと願うならば、改憲は最終的に避けて通れない道だ。
 9条の理念を「実行」し、沖縄を「非武装地帯」とするよう求める声も県内では根強い。翁長雄志知事も「沖縄を平和の緩衝地帯にしたい」と強調している。
 しかし歴史を振り返れば、沖縄戦だけでなく、近世には薩摩侵攻の被害もある。沖縄が繰り返し戦禍に踏みにじられてきたのはなぜか。備えが無力であれば、犠牲になるのは結局、住民であることを歴史の教訓は示している。
 改憲に強く反対している外国が中国だ。中国外務省の耿爽(こう・そう)副報道局長は23日の記者会見で、改憲勢力が国会発議に必要な衆院3分の2の議席を確保したことに関し「日本が平和発展の道を引き続き歩むことを望む」と述べ、9条改正の動きを牽制(けんせい)した。
 中国は石垣市の行政区域である尖閣諸島周辺海域への公船派遣を継続し、沖縄に対する領土的野心を公言している唯一の国でもある。現憲法のほうが中国にとって都合がいいということだろう。その意味で改憲は遅まきながら、中国に対し、尖閣への手出しを控えるよう求める強力なメッセージになるはずだ。
 ただ改憲のプロセスは、日本の軍事的台頭を警戒する中国や韓国の理解を得る努力と並行して行うべきである。改憲はあくまでも国内問題だが、中韓の対応によっては国際問題に発展する恐れもあるからだ。
 恒久平和をどう実現するか。9条のあり方を今一度考え直すことで、実行可能な道筋をつけたい。

2017年

10月

24日

もはや「オール」名乗れぬ

 「沖縄で自民全敗」との観測を覆した。4区の自民前職、西銘恒三郎氏(63)=公明推薦=が、米軍普天間飛行場の辺野古移設反対を掲げる「オール沖縄」の無所属前職、仲里利信氏(80)に競り勝ち、選挙区の議席を奪還した。
 「オール沖縄」は、辺野古移設が県民の総意であると主張する名称だ。しかし、翁長雄志知事が誕生した2014年の知事選以来、辺野古を容認する候補者が初めて国政選挙で勝利した。「オール沖縄」に風穴が開いたのだ。野党は今後「オール」を名乗る資格はなくなるのではないか。「オール沖縄」を称する以上、野党にとっては全選挙区を取ってこその勝利であり、1~3区の候補者が当選したとはいえ、「オール沖縄」は事実上の敗北と言えるだろう。
 翁長知事は23日、「1区から3区までは明確に大差でしっかりと方向性が出てきた」と述べ、辺野古移設反対の民意が示されたとの見方を示した。強気だが、敗北を糊塗(こと)する発言とも取れる。
 普天間飛行場を抱える2区の宜野湾市、移設先に3区の名護市では野党が勝利しており、当事者の自治体から辺野古反対の意思は示されている。しかし4区が普天間問題の当事者ではないから、4区の選挙結果が移設の論議に影響しないということはない。今選挙で、移設容認の意見も県内に根強く存在することが浮き彫りになったからだ。
 知事や、知事を支える勢力の問題点は「移設反対は民意」という大義名分を掲げ、こうした声を一方的に封殺してきたことにあった。今後は移設容認の意見にも配慮した丁寧な県政運営に心を配るべきだ。
 共産党が全国で唯一、選挙区の議席を守った1区も、非「オール沖縄」候補の得票合計が当選した赤嶺政賢氏(69)を上回っている。翁長知事支持、不支持という対立軸で見ると「オール沖縄」が崩壊しているのは4区だけではない。既に首長選や那覇市議選で「オール沖縄」は退潮傾向が鮮明に表れており、今選挙もそうした流れがいっそう強まったことを示している。
 4区には米軍基地問題以外にも大きな争点があった。宮古、八重山への陸上自衛隊配備計画である。宮古島市、石垣市とも配備に賛成する西銘氏の得票が仲里氏を上回った。陸自配備計画に対しては、両市とも住民から一定の理解が示されたと見るべきだろう。
 特に宮古島市では、西銘氏が仲里氏に約8千票差で圧勝した。4区全体で約6300票差だったから、宮古島市での大量得票が西銘氏勝利に貢献したと言える。
 仲里氏は2014年の前回衆院選で初当選して以来、選挙区の離島にほとんど足を運んでおらず、宮古、八重山の有権者からは縁遠い存在だった。市町村と国政のパイプ役としてしばしば離島を訪れ、汗をかく機会が多かった西銘氏とは対照的で、それが勝敗の差につながった可能性は大きい。
 米軍基地問題に時間を割くことが多い「オール沖縄」の議員だが、離島には米軍基地がないせいか、選挙が終われば離島で姿を見かける機会はほとんどないのが実態だ。これでは離島の有権者から見放されるのも、ゆえなしとしない。沖縄本島に比べ、有権者数が少ない離島は軽視される傾向があるが、今選挙は、離島の選挙結果が勝敗を左右することもあるという好例だろう。

2017年

10月

21日

最大決戦いよいよ大詰め

 今年最大の政治決戦も、いよいよ大詰めを迎えた。安倍晋三政権の是非、憲法改正、消費増税などが問われ、沖縄では米軍基地問題も争点に、与野党が激しい集票合戦を繰り広げた。衆院選は投開票まであと1日に迫っている。
 台風の影響による投票率の低下が懸念され、県選管は期日前投票の活用を促す異例の呼び掛けを行っている。投票所には確実に足を運びたい。
 選挙期間中に東村で発生した米軍ヘリ炎上事故は、各陣営に衝撃を与えた。県議会は直ちに与野党の全会一致で抗議決議を可決した。しかし米軍は日本政府の飛行自粛要請にもかかわらず、具体的な事故原因や再発防止策を示さないまま、一方的に同型ヘリの飛行を再開した。
 米軍の事故とその後の対応は県民感情を硬化させ、選挙で与党・自民党に不利に働くことは否めない。与党が日米の連携を重視し、日米合意の履行による着実な基地負担軽減を訴えてきたことを考えれば、米軍の行為は自らの首を絞めるに等しい。逆に野党は「米国は約束を守らない」などと勢いづいている。
 4選挙区には12人が立候補した。前回2014年衆院選では野党が全勝し、自民党候補は辛くも比例で復活したが、同じ顔合わせとなる今選挙も、自民党候補が優勢と伝えられる選挙区はない。選挙区で敗れた場合、比例復活が二度続く保証はなく、選挙結果によっては沖縄から政府とのパイプ役がいなくなる事態も現実味を帯びる。
 必死なのは野党も変わらない。米軍普天間飛行場の辺野古移設反対で足並みをそろえ、県民の民意を体現する存在として「オール沖縄」を名乗る。しかし4選挙区のうち一つでも落とせば「オール」を称し続ける根拠が問われるのは間違いない。来年の名護市長選や知事選で勝利するためにも、前回に続き全選挙区を制することが至上命題になる。
 全国的には、辺野古移設の是非は争点になっていない。移設工事は適法とする昨年の最高裁判決で、国と県の対立は最終的な決着を見たとの認識が一般的だからだ。そこに全国と沖縄の大きなズレがある。移設工事は進んでおり、移設の是非が争点であり続ける沖縄の選挙のあり方も今後、問われざるを得ない。
 4区では陸上自衛隊配備の賛非も争点になっている。与党は推進、野党は反対の立場であり、特に石垣市での与野党の得票数は、来年3月の石垣市長選を占う材料になる。
 沖縄では1区の維新候補が唯一、希望の党の推薦で戦っているが、報道各社の世論調査では希望の全国的な伸び悩みが指摘されている。フレッシュさを売り物にした希望だが「安倍一強」打破を叫ぶ小池百合子代表の政権批判が、民進党など従来の野党と大差ないこと、公約の現実性、さらには急ごしらえの候補者擁立といった問題点がある。
 希望が躍進すれば、現実的な安全保障政策を採用する保守二大政党の流れが日本で根付く可能性が高いだけに、今選挙は大きな岐路と言える。
 民進党「ハト派」で結成した立憲民主党が支持を伸ばせば、保守二大政党の流れは阻止される方向になるだろう。
 衆院選後は政界再編の可能性も予想されており、沖縄もいずれは中央政界のうねりに巻き込まれていくことになる。沖縄が今、どのような意思を示すのか。まさしく地域の盛衰に直結する重要な選挙である。

2017年

10月

13日

米軍事故、安全保障再考を 視点

 米軍普天間飛行場所属のCH53E大型輸送ヘリが11日、東村の民間地に緊急着陸し、大破、炎上した。最も近い民家から数百㍍の距離だという。許し難い事態である。地域住民や乗員に死傷者が出なかったのは奇跡的だったが、繰り返される米軍機の事故に県民の怒りは増すばかりだ。

 翁長雄志知事は「とんでもない話だ」と憤った。安倍晋三首相は「大変遺憾だ。安全第一で考えてもらわなければ困る」と述べ、米側に原因究明と再発防止を申し入れるよう指示した。12日には自民党の岸田文雄政調会長が来県するなど、政府・与党挙げて対応に追われている。

 米軍は安全を確認するため、当面、同型機の運用を停止する方針を表明した。米軍には厳重に抗議し、明確な安全対策を要求すべきだ。

 沖縄にとって悲劇的なのは、事件・事故の繰り返しが日米両政府への県民の不信感を強め、ひいては両政府が進める県民の負担軽減策にブレーキが掛かってしまう悪循環が存在することだ。

 普天間飛行場の辺野古移設は、まさに今回のような事故が市街地の宜野湾市で起こることを防ぐため計画された。しかし現実には、米軍の事件・事故が辺野古移設反対の理由に使われることが多い。政治的思惑が、沖縄の基地負担軽減をむしろ遅らせているのである。

 衆院選の候補も相次いで事故現場に駆けつけているが、これこそ与野党を超えた「オール沖縄」で県民の声を訴えるべき事案だ。しかし翁長知事は11日、報道陣の質問に対し、今回の事故が衆院選に影響するとの認識の上で「新辺野古基地を造らせない、オスプレイ配備撤回、普天間閉鎖撤去を求める候補者を勝たせることで、民意を改めて示さないといけない」と述べた。

 記者とのやり取りとはいえ、事故の抗議にかこつけた政治的アピールにしか見えず、さらには、さまざまな政治的立場を持つ県民の分断を誘発させる可能性すらある。自ら「オール沖縄」を否定するような言動ではないか。

 米軍の事件・事故が起きるたび、日本側の捜査権を制限した日米地位協定の問題が指摘される。日本で起きた事故なのに日本側が独力で究明できない。米軍の「ブラックボックス」化が県民の不公平感を増幅させてきた。

 米軍の事件・事故は、過去、どの政権にとっても頭痛の種だった。日本の「対米追従路線」や、安倍政権の外交政策を批判しても始まらない。問題の根源は、自国の防衛を米軍に全面的に委ねるという、戦後一貫した安全保障のあり方にある。

 現在の国際情勢下、沖縄で非武装または一的な軍備縮小を進めることは非現実的だ。では沖縄にとって最もリアリティの高い解決策は何か。

 日米同盟の堅持は今後とも基本線だが、県民の負担軽減を進めるには、米軍基地や、米軍の活動縮小を求めるほかない。一方で脅威に対応できる体制を維持するには、米軍に代わる存在として、自衛隊の役割強化が不可欠である。

 事故が衆院選に影響するというのなら、各党が提唱する、自衛隊を憲法にどう位置づけるかという憲法改正の問題まで、県民には踏み込んで考えてもらいたい。

 

2017年

10月

11日

「辺野古」以外に何を語るか 視点

 衆院選が10日公示され、沖縄の4選挙区には計12人が立候補した。翁長雄志知事を支える「オール沖縄」勢力と安倍政権の継続を訴える自民の対立を軸に、1区では希望の推薦を受けた維新前職も加わる構図となった。
 沖縄で最大のテーマは安全保障だ。全国的に危機感が高まる北朝鮮問題に加え、石垣市の行政区域である尖閣諸島は日々、中国の脅威にさらされている。米軍基地の重い負担を軽減しながら、同時に脅威に即応できる体制を構築する。沖縄にはそうした現実的な政策が求められている。
 どの候補、あるいはどの政党が現実的な政策を打ち出しているのか、注視しなくてはならない。
 憲法9条の改正をどう考えるかは、各候補や各党の安全保障政策を象徴している。自民、維新は賛成、「オール沖縄」勢力は反対であり、違いは明確だ。
 自衛力の強化を将来的な米軍縮小につなげるのか、9条の堅持で米軍だけでなく自衛隊の縮小も要求していくのか、両者の理念は根本的に異なる。
 前回2014年の衆院選は翁長知事が誕生した知事選の直後に行われ、米軍普天間飛行場の辺野古移設問題が最大の争点とされた。辺野古は今選挙でも依然、争点の一つとされるが、しかし当時とは社会状況が違う。それは昨年の最高裁判決、今年の埋め立て工事着工、さらには増す一方の中国、北朝鮮の脅威である。こうした中で、単なる「反対」だけでは責任ある態度とは言えない。
 候補者が辺野古に言及するのであれば、最近の状況の変化について何を語るのか、あるいは語らないのかにも耳を澄ませたい。
 辺野古移設をめぐっては自民が容認、「オール沖縄」が反対という姿勢が固定化しており、そのこと自体にことさら耳新しさはない。今選挙の第一声では「オール沖縄」候補が改めて辺野古反対を強調したのに対し、自民候補はあえて触れようとはしなかった。既に与野党の議論が噛み合っていない。これをどう見るか。
 有権者は、各候補者が「辺野古」以外に何を訴えるのかも、厳しくチェックすべきだ。
 沖縄の課題は多い。一括交付金など、国による沖縄振興策をどう評価するか。全国最低水準の所得をどう引き上げ、経済的な自立につなげるか。農業、観光、商工などさまざまな分野で、候補者それぞれに信念や主張があるはずだ。国境を守る大事な役割を果たしている離島の振興策も、なおざりにしてほしくない。
 候補者のうち9人は前職であり、実績が問われるのは当然だ。
 全国的に最大の争点は安倍政権継続の是非である。しかし疑問なのは、事実上の野党第一党である希望の党が、首相候補を明示していないことだ。
 過去にも細川政権や村山政権のように、選挙後の離合集散で突如として誕生した政権は存在したが、いずれも短命に終わっている。
 野党の首相候補が不明というのは、有権者にすればびっくり箱を差し出されているようなものだ。安倍首相さえ打倒すれば、後任は誰もいいのだろうか。希望の党は今からでも首相候補を明らかにすべきであり、現状のままでは「政権選択選挙」とは言い難いのではないか。

2017年

10月

05日

改憲、消費増税、基地争点に 視点

 10日公示、22日投開票の衆院選は、全国では自公、希望の党、立憲民主党、社民、共産の戦いとなる構図が固まった。沖縄では、米軍普天間飛行場の移設問題を対立軸に、「オール沖縄」勢力、自民、維新がしのぎを削る。
 ここへ来ていくつか大きな争点が浮上した。政権選択の選挙として、まず安倍政権の是非が問われる。与党は「アベノミクス」や安全保障法制、緊迫する北朝鮮問題への対応などの実績を掲げ、自公政権の安定感を強調。野党は森友、加計学園問題などを追及し、首相は説明責任を果たしていないと指摘、「大義なき解散だ」と批判している。
 憲法改正も重要なテーマだ。自民、希望、維新は前向きな姿勢を示したが、立憲、共産、社民は消極的だ。特に戦力不保持を定めた9条が争点になる。日本を取り巻く厳しい安全保障環境、今後勃発する大規模災害の可能性を考えると、自衛隊の存在感は、将来にわたり高まる一方だ。自衛隊が「違憲」と解釈される余地を残す条文のままでいいのか問われる。
 沖縄の米軍基地負担軽減に向けた方策として、在沖米軍を縮小し、米軍施設を自衛隊が使用できるようにするのも一つの案だ。辺野古移設をめぐり、開会中の県議会で興味深い発言があった。自民県議が翁長雄志知事に対し「移設を容認し、30年後には(代替施設を)自衛隊が活用するという落としどころを考えるべきではないか」と提案した。「米軍に代わる自衛隊」という考えを推し進めるならば、いずれ9条の改正は不可避になるだろう。
 消費税増税をめぐっても各党の考えは割れている。自民は2019年10月の消費税率10%への引き上げを予定通り実施し、幼児教育の無償化などに振り向けたい考えだが、希望や立憲は増税凍結を訴える。
 過去最多の観光客が来県し、空前の活況とも言われる県経済だが、観光と直接関連のない業種や、中小零細企業まで好景気の恩恵が行き渡っていない。その意味では多くの県民が依然、経済的な苦境にあえいでおり、その上、少子高齢化や人口減少で将来に不安を感じている。消費増税は、こうした状況も考慮に入れた上で検討されなくてはならない。
 沖縄では4つの小選挙区に12人が立候補する。前回2014年衆院選と同じ対立の構図となっており、基地問題、特に辺野古移設は依然、一つの争点だ。候補者や政党間で堂々とした論議が望まれる。ただ前回と違い、辺野古だけが争点という雰囲気はだいぶ薄れている。
 改憲や消費増税はもとより、県民生活に密着した福祉のあり方、地域活性化の方策、離島では尖閣諸島問題や自衛隊配備問題も大きなテーマだ。
 予定候補者のうち9人は現職であり、この3年間の実績も厳しくチェックしたい。

2017年

9月

20日

意義深い米大統領国連演説

 米国ニューヨークの国連本部で、トランプ米大統領が19日、就任後初めて国連総会の一般討論演説を行い、もし北朝鮮への軍事攻撃に踏み切る事態となれば「北朝鮮は完全に破壊される」と警告。横田めぐみさん=失踪当時(13)=の拉致事件にも触れ「北朝鮮は凄まじい人権侵害を行っている」と非難した。
 米大統領の国連演説は、日本上空を通過する弾道ミサイル発射や核実験を繰り返す北朝鮮への力強い牽制になったはずだ。
 米大統領が国連で日本人拉致問題に言及するのは異例で、日本にとっても意義深い。産経新聞によると、横田めぐみさんの母、早紀江さん(81)は「トランプ大統領が拉致問題にも思いを寄せ、発言してくださったことは大きな意味がある」と述べた。安倍晋三首相とトランプ氏の良好な関係を受け、日本政府による水面下での働き掛けが功を奏した可能性もある。
 北朝鮮の脅威は沖縄から見ても現実的だ。沖縄本島には有事の際、米軍の活動拠点となると見られる米軍基地がある。北朝鮮の人工衛星と称する弾道ミサイルは2012年と16年の2回、宮古、八重山諸島の上空を通過した。中山義隆石垣市長は直ちに北朝鮮に抗議したが、北朝鮮は馬耳東風だった。
 北朝鮮との交渉を指す場合に使われる「対話と圧力」という言葉は常套句だが、日米は対話の積み重ねの果てに北朝鮮に裏切られてきた経緯がある。「北朝鮮の破壊」という言葉は人を驚かせるが、実業家として「ディール(取り引き)」の重要性を強調してきたトランプ氏であれば、北朝鮮の核放棄に向けた交渉にあたり、さまざまな「口撃」を繰り出すのは当然のことだ。
 現に国際社会で繰り広げられているのは国益と国益のぶつかり合いであり、日本としても、いかなる事態にも対応可能な即応性と柔軟性が求められる。
 トランプ氏が国連改革に前向きな姿勢を示していることも評価できる。
 トランプ氏は大統領就任前の昨年12月、国連について、ツイッターに「おしゃべりして楽しい時間を過ごす仲良しクラブ」と投稿。大統領に就任後の4月に国連安全保障理事会メンバー国の国連大使らをホワイトハウスに招いた際、米国の国連拠出金の負担は「不公平だ」と不満を表明、批判を繰り返した。
 国連では、沖縄県民を「先住民」と認めるよう求める勧告が繰り返されたり、翁長雄志知事が欧州国連本部の人権理事会で「沖縄県民の自己決定権がないがしろにされている」と演説するなど、沖縄県民から見ても、首をかしげたくなるような事態が繰り返されている。組織が一部の政治勢力に利用されているのではないかという疑惑を拭えない。
 安全保障理事会の常任理事国が自ら国際秩序を乱す行動を取るなど、国連の存在意義そのものが問われるような状況も出現している。国連本来の理想である平和維持や人権擁護の機能が十分に発揮されているとは言い難い。その意味で、米大統領の発言は良識を反映している。

2017年

9月

18日

衆院解散へ 政局風雲急

 衆議院の解散がにわかに現実的になり、政局は風雲急を告げている。安倍政権は10月10日公示、同22日投開票を軸に日程調整を本格化させているという。2014年12月以来、約3年ぶりの衆院選で、自公連立政権が国民の審判を受けることになる。
 沖縄の4選挙区は、いずれも現職が出馬すると見られている。1区は赤嶺政賢氏(共産)、国場幸之助氏(自民)、下地幹郎氏(維新)、2区は照屋寛徳氏(社民)、宮﨑政久氏(自民)、3区は玉城デニー氏(自由)、比嘉奈津美氏(自民)、4区は仲里利信氏(無所属)、西銘恒三郎氏(自民)で、新人は幸福実現党に立候補の動きがある。
 前回14年衆院選では、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に反対する「オール沖縄」と呼ばれる勢力が小選挙区で全勝した。しかし自民候補と下地氏はいずれも比例で復活し、結局、立候補した9人全員が当選する「敗者なき選挙戦」となった。今選挙も「オール沖縄」勢力と自民の対決が軸になる。
 辺野古移設の是非は争点の一つになるが、移設をめぐる状況は当時とは一変した。2016年12月の最高裁判決を受け、辺野古沿岸の埋め立ては適法性が確認され、今年4月には埋め立て工事が始まった。移設阻止は現実的に困難という見方も広がりつつあるが、反対派は徹底抗戦を叫んでいる。
 自民党は移設容認、「オール沖縄」は移設反対の立場で再び干戈(かんか)を交える。移設のメリット、デメリットに関し、双方とも正面から論戦してほしい。
 米軍基地と並んで沖縄が抱える重要な安全保障問題が尖閣諸島問題だ。中国の身勝手な領有権主張は依然として変わらないが、中国公船が領海に侵入して八重山の漁船を追い回すなど、国有化当時に見られた強引な行動は影を潜めた。しかし中国公船と日本の巡視船が尖閣周辺海域でにらみ合いを続ける緊張状態は3年前と比べても改善されていない。
 こうした状況を受け、政府は南西諸島に陸上自衛隊を配備し、守備を固める動きを進めている。石垣島への配備は来年度から本格化する予定で、特に宮古、八重山を含む4区で争点の一つになる。
 現職9氏に関して言えば、この3年間でどれだけ沖縄振興に手腕を発揮したか、有権者が改めて実績をチェックする好機でもある。
 国会議員は市町村議会議員や県議会議員に比べ、住民と接する機会は必ずしも多くない。大所高所から国政の問題に取り組むことが求められるためだが、一方で地域と国政のパイプ役としての機能も果たさなくてはならない。それぞれの政治家が日ごろからどの程度、選挙区に足を運び、地域の要望を吸い上げてきたか問われる。
 沖縄は来年、名護市長選、石垣市長選、県知事選などの大型選挙が相次ぐ。衆院選は事実上の前哨戦として、県内政局を大きく左右する。

2017年

9月

08日

「中華台北」の悲哀

 「台湾人に生まれた悲哀」という言葉がある。日本人にとっては、ピントこない人がほとんどで、馴染みがない言葉である。
 1994年、作家の故司馬遼太郎氏が台湾台北市で李登輝元総統と対談した際、李氏から飛び出した発言だ。この言葉は日本人が台湾を理解する際の、一つのキーワードになりうる。
 李氏のいう悲哀の解釈は様々あるが、戦前の日本統治時代に日本人の下に置かれた待遇や、戦後、国民党政権が起こした2・28事件(1947年に起きた暴動事件)の犠牲、長期間続いた同党による戒厳令下の圧政などが入るだろう。
 最近、この「台湾人に生まれた悲哀」を感じさせる出来事が台北市であった。
 台湾では初となる、学生スポーツの祭典「ユニバーシアード夏季大会」(8月19日から30日まで)で、台湾の選手団が「中華台北(チャイニーズ・タイペイ)」と表記されていたことである。ユニバーシアードは五輪に準じる運営となっているためだ。
 台湾内で開催されている大会であっても、台湾選手は台湾の呼称は使えず、中華台北の下、参加したのだ。自らの国(台湾は国際的には中国の地域とされている)の名前を名乗って出場できないとは、かなり屈辱的な扱いである。李氏の言葉を思い出した。
 なぜ、五輪で台湾は中華台北と呼ばれているのか。1971年、中国が国連に加盟した際、台湾は追放され、次第に国際社会で孤立を深めていったところまで遡らなければならない。
 その当時、中国つまり中華人民共和国を意味する「一つの中国」の原則の下で、中華民国(台湾)は国際社会から事実上、無視されたのも同然だった。
 そこで政治的な妥協策として1979年英文名称を「Chinese Taipei Olympic Committee」とし、89年には英文名称を中国語名称「中華台北」とすることで、中国側と合意した。その後、経済協力機構(OECD)、アジア太平洋経済協力国際機関(APEC)でも中華台北が使用されている。
 この扱いについて多くの台湾住民は表面的には甘んじてきた。日本統治移前はオランダなど、常に外国勢力に抑圧されてきただけに、台湾人の忍耐強さには脱帽させられる。
 しかし今回は中華台北を海外で使用するならともかく、台湾内での扱いともなると、さすがに反発が出た。市民団体が台北市内で、中華台北でなく台湾の呼称をすべきと訴える集会を開いた。
 また在日台湾同郷会が東京五輪での中華台北表記を「台湾と訂正せよ」と、日本オリンピック委員会に要求し、独立派グループが同五輪で台湾名義での参加を求めて市内で座談会を開くなど、中華台北を巡って不満が続出。東京五輪にも飛び火しそうで、日本人も今後、無関心ではいられないはずだ。
 昨年7月、石垣島を訪問した李氏が「日台は運命共同体だ」と発言したことからも分かるように、台湾蘇澳鎮と姉妹都市関係にある石垣市は台湾との結び付きは強い。石垣港には海外からのクルーズ船が多数寄港しており、多くの台湾人を運んでおり、乗客の大多数を占める台湾人が市内を闊歩(かっぽ)する。
 その姿からは「台湾人に生まれた悲哀」は想像できないが、その裏側に潜む悲哀を知ることによって、双方の理解をさらに進める時が到来している。

2017年

9月

04日

学力低下の惨状打開を

 夏休みを終え、いよいよ2学期がスタートした。八重山の最高気温は30度を超え、猛暑はまだ和らぐ気配を見せないが、季節は着実に秋へと移ろい始める。年末まであと4ヵ月、そろそろ今年の総決算も視野に入れた準備を考える時期だ。
 児童生徒の一番の「仕事」は勉学だ。小学6年生と中学3年生を対象に国語A・B、算数A・B、数学A・Bで実施される2017年度全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果が発表された。沖縄は小学校でほぼ全国平均並みとなったものの、中学校は全教科で全国平均を下回った。
 小学校はやや改善の兆しが見られるが、問題なのは依然として中学校だ。全国47都道府県別に見ると、全教科で全国最下位と低迷している。
 学力上位県と沖縄の格差は圧倒的だ。例えば国語Aでは、全国1位の秋田、石川、福井が82点なのに対し、沖縄は72点。数学Aは全国1位の福井が73点なのに対し、沖縄は58点で、15点もの大差がついた。総括すると、沖縄では小学校段階で徐々に学力向上の取り組みが奏功していると言えるが、中学校段階の取り組みは、真剣に見直すべき時期に来ている。
 八重山でも石垣市の調査結果が先日発表されたが、中学校は全国最下位の県平均をさらに下回る結果となった。学力低迷の覆うべくもない惨状と言える。
 2010年、中山義隆市長の就任時に登用された玉津博克元教育長が、学力向上を最大の目標に据え「冠鷲プロジェクト」と名付けたプランを打ち出したのはまだ記憶に新しい。ところがこの結果を見ると、とても学力向上どころではない。小学校はともかく、中学校に関しては「道半ば」どころか「一歩たりとも進んでいない」のではないか。
 現状打開に向けた一手は競争原理の導入だろう。テスト結果を学校別にランキングし、上位校を公表するなどの取り組みである。下位校にとっては上位校が目に見える目標になるし、参考にもなる。上位校にとってはさらなる励みになるはずだ。
 しかし全国学力テストが2007年にスタートして10年、都道府県別、学校別での成績数値化が可能になるというメリットが、県全体でも八重山でも、うまく生かされているとは言い難い。
 八重山では小規模校が多く、個人情報保護の面から学校別の公表が難しいという事情もあるが、県レベルでこうした施策が検討されたことはあるのだろうか。
 こうした提案に対し、「過度な競争を招きかねない」として、ランキングに反対する動きがあることは理解できない。県内でも中学校が全国最下位であることを意図的に報じないメディアがある。これでは改善は進まない。
 学力向上を実現するには、子どもの貧困問題、沖縄の夜型社会の改革、教員の資質向上など、一筋縄ではいかない難問が横たわっているのも事実だ。
 資源を持たない沖縄にとって、人材こそ宝だとよく指摘される。人材育成の基礎は学力向上だ。優秀な人材を他地区に流出させるのではなく、逆に全国から吸い寄せるほどの魅力ある「高学力都市」になってこそ、沖縄の将来は開ける。

2017年

9月

03日

学力低下の惨状打開を

 夏休みを終え、いよいよ2学期がスタートした。八重山の最高気温は30度を超え、猛暑はまだ和らぐ気配を見せないが、季節は着実に秋へと移ろい始める。年末まであと4ヵ月、そろそろ今年の総決算も視野に入れた準備を考える時期だ。

 児童生徒の一番の「仕事」は勉学だ。小学6年生と中学3年生を対象に国語A・B、算数A・B、数学A・Bで実施される2017年度全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果が発表された。沖縄は小学校でほぼ全国平均並みとなったものの、中学校は全教科で全国平均を下回った。

 小学校はやや改善の兆しが見られるが、問題なのは依然として中学校だ。全国47都道府県別に見ると、全教科で全国最下位と低迷している。

 学力上位県と沖縄の格差は圧倒的だ。例えば国語Aでは、全国1位の秋田、石川、福井が82点なのに対し、沖縄は72点。数学Aは全国1位の福井が73点なのに対し、沖縄は58点で、15点もの大差がついた。総括すると、沖縄では小学校段階で徐々に学力向上の取り組みが奏功していると言えるが、中学校段階の取り組みは、真剣に見直すべき時期に来ている。

 八重山でも石垣市の調査結果が先日発表されたが、中学校は全国最下位の県平均をさらに下回る結果となった。学力低迷の覆うべくもない惨状と言える。

 2010年、中山義隆市長の就任時に登用された玉津博克元教育長が、学力向上を最大の目標に据え「冠鷲プロジェクト」と名付けたプランを打ち出したのはまだ記憶に新しい。ところがこの結果を見ると、とても学力向上どころではない。小学校はともかく、中学校に関しては「道半ば」どころか「一歩たりとも進んでいない」のではないか。

 現状打開に向けた一手は競争原理の導入だろう。テスト結果を学校別にランキングし、上位校を公表するなどの取り組みである。下位校にとっては上位校が目に見える目標になるし、参考にもなる。上位校にとってはさらなる励みになるはずだ。

 しかし全国学力テストが2007年にスタートして10年、都道府県別、学校別での成績数値化が可能になるというメリットが、県全体でも八重山でも、うまく生かされているとは言い難い。

 八重山では小規模校が多く、個人情報保護の面から学校別の公表が難しいという事情もあるが、県レベルでこうした施策が検討されたことはあるのだろうか。

 こうした提案に対し、「過度な競争を招きかねない」として、ランキングに反対する動きがあることは理解できない。県内でも中学校が全国最下位であることを意図的に報じないメディアがある。これでは改善は進まない。

 学力向上を実現するには、子どもの貧困問題、沖縄の夜型社会の改革、教員の資質向上など、一筋縄ではいかない難問が横たわっているのも事実だ。

 資源を持たない沖縄にとって、人材こそ宝だとよく指摘される。人材育成の基礎は学力向上だ。優秀な人材を他地区に流出させるのではなく、逆に全国から吸い寄せるほどの魅力ある「高学力都市」になってこそ、沖縄の将来は開ける。