教科書問題決着 「変わっても支障なし」 教科書問題

 八重山地区の公民教科書問題は、石垣市、与那国町が育鵬社版、竹富町は東京書籍版を採択することで最終決着した。昨年6月、委員の入れ替えを決めた八重山採択地区協議会に端を発し、両社の教科書をめぐって繰り広げられた攻防を、記者の視点から振り返る。

 

 

 ▽反対運動
 改めて感じるのは、育鵬社版の反対運動がなぜ、ここまで盛り上がったのかという疑問だ。


 昨年の9月議会一般質問で、仲間均市議は、東京書籍版が育鵬社版に変わることを念頭に仲本英立教育委員長(当時)に「教科書が変わると、何が現場で変わるのか。どういったことに支障をきたすのか」と質問した。


 仲本委員長は「端的に言って、教科書が変わっても別に支障はない。学習指導要領に沿った本なので、そんなに支障をきたすことはないだろうと思う」と答えた。一般人の感覚から考えて、常識的な答弁に思えた。


 育鵬社版に反対する人たちには大きな論拠がある。現場教員である調査員がまとめた報告書だ。


 「表紙の日本全体図の写真で、沖縄県が他の写真でさえぎられている」
 「沖縄の米軍基地に関する記述が全くない。小さな写真のみ」
 「軍事力に頼らない平和への努力や、憲法9条が果たしてきた役割がほとんど記述されていない」
 「自衛隊による軍事抑止力を強調し、憲法9条を改正する方向へ誘導するような内容」…。


 調査員がコメントした育鵬社版のマイナス評価は、14項目にも及んでいる。
 一方の東京書籍版はプラス評価のコメントが3項目だった。


 「平和主義の単元に『沖縄と基地』を取り上げ、写真では住宅地に隣接する普天間基地がとてもわかりやすく写されており、返還計画が大幅に遅れていることが記載されている」などとある。


 調査報告から判断する限り、調査員は憲法9条の改正、自衛隊、沖縄の米軍基地に反対していて、そうした思想傾向に合致する教科書を推薦しているようだ。逆に自分の思想に沿わないと思われる教科書(育鵬社版)には非難の嵐である。


 だが、八重山採択地区協議会の規約では、調査員は、法律や学習指導要領、県や八重山地区の教育方針などの観点から教科書を調査研究する、とある。


 教科書に表れた思想傾向は調査研究の対象ではないはずだが、報告書を読むと、まるで検閲官のような姿勢と言うほかない。こうした報告書に、協議会委員の多数は違和感をおぼえた。


 協議会が育鵬社版を選定した理由は次の3点だった。
 「内容の説明に妥当性があり、領土問題がしっかり扱われていて、八重山地区の教科書にふさわしい」
 「現代社会に存在するさまざまな問題を、自分を主体として捉える公民として知識・判断力を表すのに適切である」
 「改訂教育基本法の主旨を反映している」。


 東京書籍版を批判しているのではない。しかし、調査員と協議会委員と、どちらがより冷静に教科書の記述内容を判断したのか、明らかだと思える。


 そもそも、教科書を選定する権限は調査員でなく、協議会委員にある。育鵬社版の反対運動は、何か大きな先入観か思い込みに基づいている、というのが偽らざる印象だった。


 ▽玉津改革
 従来の教科書選定では、調査員が教科書に順位をつけて、第1位の教科書を「採択教科書」として協議会に報告し、協議会が追認していただけだった。これが「従来は教員が事実上、教科書を選定していた」と言われた理由だ。


 教員は教材研究のプロであり、教科書選定は教員の意見を最大限尊重するべき―というのは当然の主張だ。だが、教員の意見だけがあまりに重視されると、どのような事態が起こるかは、調査員の報告書で見た通りである。


 協議会会長の玉津博克石垣市教育長が取り組んだ教科書選定方法の改革は①協議会委員に教育委員と学識経験者を加え、教育委員会職員を外す②教科書の順位付けや絞り込みを廃止する―の2点だった。


 玉津改革が「育鵬社版の選定ありき」なのか「教科書選定方法を、本来あるべき姿に戻した」のか、激論が展開されてきた。


 ただ1つ明確なのは、教科書採択は、教員の意見を、第三者である八重山採択地区協議会が判断し、最終的には教育委員会が結論を下すという制度になっていることだ。


 前回の採択まで調査員報告の追認機関だった八重山採択地区協議会が、今回初めて独自性やチェック機能を発揮した。賛否はあるが、これが制度の本来あるべき姿だと感じる。    (仲新城誠)