ウイグルと尖閣棚上げ論 ㊦ 徳松 信男

 この鄧小平の棚上げ論に対して、日本政府は承認していないが、強烈な抗議を行ったわけでもなかった。棚上げと言うのは中国が有利であると判断した時にはいつでも下ろされるという事を意味する。はたして中国は1992年2月に領海法を制定し、これによって尖閣諸島を中国の領土と規定した。尖閣諸島は日本の領土であるが、中国の領土と規定されてしまったのである。鄧小平の棚上げ論に日本政府が抗議し、尖閣諸島の実効支配を強化しなかった結果、ますます事態が悪化しているのである。


 現在日本政府の政策は中国との摩擦を恐れ、尖閣諸島を平穏に維持するという目的で外国人ばかりでなく、日本人の上陸をも禁止している。石原都知事が5月17日に東京が尖閣諸島を守ると言って尖閣諸島購入を表明したのも、国の無策によって中国に尖閣を実効支配されるという危機意識からであった。先に述べた世界ウイグル会議のカーディル氏も10万円寄付したと伝えられる。5月24日付の新聞(東京)では「尖閣寄付10億円間近」という記事が躍る。尖閣問題に対する国民的な意識の高まりは石垣市としても嬉しい。


 尖閣諸島には戦前200人位の人が住み、沖縄県とりわけ石垣島や宮古島の漁民の活躍する海となっていたが、現在では政府の事なかれ主義外交の結果充分な漁業活動が出来ないばかりか、島や大陸棚の資源開発もできず、多大な損害を被っている。棚上げ論は国境の町の利益や安全を考慮しない誤った考え方である。棚上げ論の誤った点をたとえ話で言うならば、「ある詐欺師があなたの土地や屋敷を突然これらの土地はもともと自分の先祖の土地であったらしいと言って、様々ないやがらせをするとしよう。そして棚上げ論を持ちかけられて、一時的な平穏を求めて棚上げに同意する」といったようなものである。日本政府の基本的立場は尖閣諸島に領土問題は存在しないというものである。棚上げ論は問題の所在を認めていることであるから、尖閣に領土問題は存在しないという政府の基本的な立場にも反する。棚上げされたものは将来必ずおろされて、いわゆる冷静な話し合いで問題の解決を図ろうと言う事になる。交渉事には必ず妥協と譲歩が伴う。棚上げ論は中国の大局的な利益に基づいた言い草であった。日本の大局的な政策ではありえない。尖閣問題についての棚上げ論や、平和・友好の海にするために話し合いで解決せよという、問題の「核心」を外した論議は百害あって一利なしである。最良の方法は尖閣諸島に港湾施設や研究・観測施設を造って、平和的に実効支配を強化していくことである。人の定住は最も効果的な実効支配の方策であるばかりか、地元漁民の安全操業のや経済開発にも役立ち日本国にとって大局を見据えた政策になる。