善と悪 辻 維周

 人間界には「善と悪」が必ず存在するが、自然界に目を転じてみると、その言葉ではとても割り切れないような事例がよく見られる。たとえば悪とされる「外来種」であるが、環境省の定義では「明治以降、意図的であるなしにかかわらず、その地域に生息していない生物を、人為的に他地域から持ち込まれたもの」と言う事になっている。石垣ではオオヒキガエルを始めとして、キジ、クジャク、グリーンイグアナ、カダヤシなどが知られている。オオヒキガエルは畑の害虫駆除のため人為的に持ち込まれたことははっきりしているようであるが、他の生物は飼っていたものが逃げ出したり、人為的に捨てられたりしたものが繁殖したと推測される。


 しかし突き詰めて言うと彼らには一切に罪は無く、やはり持ちこんだり逃がした人間が「悪」であるに違いないが、現状で放置しておくと在来の生態系を破壊したり、農作物に悪影響を及ぼしたりしているため駆除することはやむを得ないと思われる。しかしながら特にオオヒキガエルやカダヤシは特定外来生物に指定されているため、原則として許可なく捕獲、移動、飼育、売買などができない事になっている。


 かといってそのまま放置すると、特にオオヒキは毒を持っているため天敵もなく、繁殖力も旺盛なため際限なく増殖してゆく。そのため、環境省は毎年七月~八月にかけて「オオヒキガエル捕獲大作戦」というイベントを開催し、少しでも数を減らそうと努めているが、期間が限られている事や参加者もそれ程多くないこと、作業が夜間であることなどの事情から、相当苦戦しているようである。しかしながら「特定外来生物」のくくりを外して通年捕獲を許可すると、飼育する人間も出てくるため、非常に難しい問題であろうと思われる。


 また外来生物ではないが悪の権化のように言われているオニヒトデも頭の痛い問題である。私は研究室やフィールドで十年以上オニヒトデの研究調査をしてきたが、彼らは本来弱った珊瑚を食べてリセットする役割(つまり人間世界で言う「善」)を担っているようである。


 つまり本来オニヒトデは珊瑚礁の生態系の一部であるため、バランスが取れていれば問題は無い。しかし現状を見てみるととても尋常とは思えない数が生息し、弱った珊瑚を食べるどころか、健康な珊瑚まで食いつくしてしまい(人間世界で言う「悪」)、密度の高いところでは共食いすら始めている。彼らは水温二十五度以上で活発化し、二年もの以上の成体になると少しの外部刺激によって放卵・放精を行う事がわかっているが、なぜ今のような爆発的増殖になったのかはまだわかっていない。

 

 せめてもの対応策として、駆除は水温が下がってから行うという事程度しかなさそうであるが、駆除予算と同時にオニヒトデ研究に対する予算をつけて、生態を知った上で対処しないと、いつまでもこの状態が続くに違いない。彼らがトゲと猛毒とで武装している理由をよく考えてみる必要があるだろう。


 このように自然界における「善」と「悪」は、人間を中心に決められたものであって、生物そのものには何の罪もない。ただし人間を除いては。
 *カダヤシは一見メダカに似ているが、卵ではなく直接子供を産み、爆発的な繁殖力をもっている。また攻撃力が強いため在来種を駆逐してゆく。(本紙論説委員)