医療保険制度を守れ 宮良 長和

 新聞に保険財政の逼迫に関しての記事の中に「終末期医療――さっさと死ねるように」との題で麻生氏の発言を載せてある。題もどうかと思うが、その中に死にたいと思っても生かされますから、というおかしな言い回しもある。


 しかしこれを書いているのは、そんな不適切な題や奇妙な言葉遣いを訂正するためではない。年を取り人生を充分生きてきて、もう何時死んでも悔いはないと思っている老人でも、一度現代医療の手にかかると無理にでも生かされ続けるこの制度を、この際改革しなければならないと考えたからである。


 それだけでなく日本の貧富の差なく誰でも受けられる優れた医療保険制度はこれからも是非守り抜かなければならないという考えから、この機会に私見を追加したいと思って紙面を拝借することにした。


 確かにこの様に医療に金がかかれば医療費は無限に膨らみ国庫もその負担に耐えられなくなる。それを防ぐには無駄な治療を止める以外に方法はない。私は安楽死協会に入っているが、入っていない人も、本人がまたは本人がはっきり意思表示できない程度に惚けたり弱ったりしておれば家族の希望により、全ての無駄な延命治療を止めることから始めなければならないと思う。


 医療の側としては、無駄な検査でも治療でもやるだけ収入になるのであるから、それに対しても何らかの規制が必要だろう。確かに我が国の保険医療制度は素晴らしい制度ではあるが、それらの問題点を改めなければその財政負担に耐えられず破綻してしまうだろう。


 これまでに何回か書いたが、年寄りの中にはもう十分生きた、これ以上生きて行くのは難儀、それでも自分は死ねないと、お迎えを待っている人も少なくないのである。そういう人々を点滴その他で無理に生かし続ける現代医療の現状は、考え直さなければならない時に来ていると思う。


 若い人は人間は誰でも長生きしたいし、何時までも生きていたいと考えていると思っているのかも知れないが、年をとってみると生きて行くこと自体が大儀に感ぜられる時があるのを認めないわけにはゆかない。


 何回か書いたが人によっては「早く死んだらいいのにねー(早く死ねたらいいのにね)」が口癖だった患者さんもいた。この人のことは今までに機会ある毎に何回か書いたが、この人だけではない。


 とにかく早急に取り組むべきことは老人を治療によって何時までも生かし続けなければならない、その方が医学の使命であるという考え方を止めて、無駄な治療を止めることから始めなければならない。


 しかし無駄な治療であるかどうかを、医師の独断で決めては問題であるから、それを審査決定する委員会が必要だろう。同時に家族も老いて死ぬのは自然であるし、祖父母や父や母を無理やりに何時でも生かし続けることが患者本人にとっても必ずしもいいことではないし、また親孝行でもないことに気づかなければならない。


 それ以上のことを実行に移すには以下の諸事項を整えなければならないし、国会の決議も必要だろう。
 ①家族の意識の改革
 ②無駄な治療であるかどうかを審査する委員会の設置
 ③無駄な治療であると委員会が認めた場合、その時点以後医療費の支払い停止
 ④本人が希望すれば安楽死の認定許可


 若い人は、人間年をとっても何時までもこの世に執着があると考えているのかも知れないが、そうでもない。先年読んだ本のなかに『極楽大往生院』という少しふざけた題の本があった。年を取って、もうこれで自分の人生は十分、心身ともに弱り、あちこち痛くなり、これ以上生きて行くのが難儀と思う老人たちを一堂に集めて、安楽死させる内容の本である。即ちお寺のような広い部屋にベッドを並べ、そこに寝てもらい、老人向けの音楽を流しながら薬を飲ませるやり方であったように記憶している。


 その本が案に相違して大好評だったそうで、読者から続々と感想が寄せられたと言う。これから察すると、そろそろあの世に行ってゆっくり休みたいと考えている人々も少なくないようである。これを書くために本棚を探したがもう見つからない、年を取るとこのように何でもすぐなくなる。誰かが勝手に取っていった、とまでは言わないが、そのうち惚けてそう言いだすかも知れない。


 更に近藤誠、中村仁一両著者の『死ぬなら癌がいい』という題の本もある。ご両人は「まだ七十代であるが、もう子育ても終わり人間としての賞味期限は切れたから何時死んでもいい、そして死ぬのは癌に限る、老年者の癌に限って言えば医者が治療と称して、手術したり抗がん剤を投与したりしていじくり回さなければ次第に弱り苦しまずに楽に死ねる」と確信を持っておっしゃる。


 中村さんは老健施設に長く居られて、多くの入居者を観察し、また郷里の長野県の田舎で小学生の頃苦しまずに自然に死んでいった年寄りたちを多く見てきた経験に裏打ちされた結論である。


 我が国の医療制度もこのまま無駄な治療を放置していては財政的に行き詰ることは間違いなく、その上老人を無益に苦しめることを知らなければならない。政権交代のこの機会に抜本的に改革すべき好機であると思う。