
▽民間活力の弱体化
自衛隊誘致を積極的に進めてきた外間町長だが「私は中国の脅威とか抑止力については一言も言っていない。常に経済優先」(3月議会での答弁)と、誘致の目的を経済効果だけに割り切っている。
背景にあるのは、深刻化する一方の過疎化だ。終戦直後は1万2000人いたという人口が、現在では1500人台に。島内に高校や総合病院などがないことが大きな理由で、ここ10年でも「200人が島から出て行った」(外間町長)という。
海底遺跡をはじめとする個性的な観光資源を十分に生かし切れていないのも、人口減少による民間活力の弱体化が大きな要因になっている。
陸自の沿岸監視部隊は100人規模と見られ、配備が実現した場合、隊員の家族も含め人口は一気に増える。町内の飲食業などは活気づき、国によるインフラ整備の推進は地元業者を潤すものと期待される。外間町長は「自衛隊は消費部隊。一つの産業だ」とさえ言い切る。
▽崩れた夢
「10億円」の要求根拠は、国が2012年度予算で、町有地取得費に約10億円を計上したことだ。外間町長は「10億円が町に投入され、経済効果が促されるものと思われていた」と強調する。
町長が描いていた構想は、10億円を基金化し、小中学生の島外への派遣費、給食費の無料化、出産のため島外へ出る妊婦への補助―などに役立てる、というものだ。10億円を人口で頭割りし、町民全員に分配するアイデアさえ取り沙汰されたことがある。
しかし防衛省の提示額は町有地の賃貸料が年間500万円。町長の「夢」はもろくも崩れた。
「論外だ。これでは私は『町賊』と言われる。10億円から多少の減額はあるかも知れないが、それに近い額を要求する。ここが頑張りどころ」。外間町長は「条件闘争」を宣言する。
しかし10億円要求は「あまりにもストレート過ぎた。本来は表沙汰にするべきではない話だった」(関係者)という懸念の声もある。
小野寺五典防衛相は26日、記者会見で「自衛隊配備は町長と議会の要請だった。地元の理解を得られなければ、計画全体を含め検討する」と述べ、10億円要求には応じない考えを示した。
これに対し、外間町長は「防衛省からは(南牧場の)測量結果の図面も提出されていない。そもそも契約を締結できる状況にない」と指摘。
防衛相発言について「自分たちの作業の遅れを隠すため、私たちに責任を転嫁しているのではないか」と不快感を隠さない。
妥協点が見えないまま、防衛省が当初掲げた2012年度内の用地取得は実現せず、8月に町長選を控える2013年度が始まった。 (つづく)