「親思う心にまさる親心…

 「親思う心にまさる親心 今日のおとづれ何ときくらん」。処刑を前にした維新の志士、吉田松陰が詠んだ句だ。「子が親を思う心より、親が子を思う心がまさる。私が死んだと聞いたら、親はどんなに嘆くだろう」。人間性に対する深い理解の持ち主だったであろう松陰の人柄がしのばれる◆親の愛情は、人間として生まれてきて他者から注がれる最大の贈り物だろう。匹敵するものは恋愛があるくらいだが、恋愛がいつかは消えると言われるのに対し、親の愛情は終生変わらない◆米国のニクソン元大統領は、最初の大統領選で敗北し、政治的に不遇の日々を送っていた。そのころ、父親が瀕死の病床についた。回想録によると、ニクソンが見舞いに訪れ「あすも来ますよ」と声をかけると、すっかり弱り切り、死を予感した父親は「あすは、もうここにはいないだろう」と答えた◆ニクソンが「お父さん、がんばって」と励ますと、父親はニクソンを見すえて「お前こそ、がんばれよ」と答えたという。ニクソンは両親の死後、再起を果たし、大統領の座を射止めるが、父親との最後の会話は心の支えになったことだろう◆沖縄にも親心を歌った美しい民謡「てぃんさぐぬ花」がある。古今東西変わることがない家族の絆の大切さを、改めて噛みしめたい。