アジアでの孤立回避 日台協定 譲歩の背景は 産経新聞台北支局長に聞く

「八重山の漁業者のことを考えると笑顔にはなれない」と険しい表情を見せる吉村支局長(石垣市内で)
「八重山の漁業者のことを考えると笑顔にはなれない」と険しい表情を見せる吉村支局長(石垣市内で)

 八重山の漁業者から激しい反発の声が上がるなど、県内では批判が多い日台の漁業取り決め(協定)。八重山にとって協定締結の意義は何だったのか、台湾で取材を続けてきた産経新聞台北支局長の吉村剛史さんに話を聞いた。


 ―日台漁業協定では、日本側は譲歩し過ぎたという批判が大きい。
 「その通りだが、締結せざるを得なかったと思う。ただ、尖閣問題がこじれなければ、日本はもっと有利な条件で締結できたかも知れない。逆に日中対立があそこまで激化したから、中台連携を阻むために、思い切った大きな譲歩をしてまでも締結に踏み切った、という両面が存在する。
 日台の漁業協議の動きは1996年から始まったが、台湾も主権を主張する尖閣などをめぐり、操業水域の線引きで暗礁に乗り上げて2009年以降中断し、昨年6月あたりから再び動き出していた。東日本大震災に対し、台湾が巨額の対日義援金を送ってきたことなどが背景だ。
 しかし9月の尖閣固有化によって、台湾当局も与野党からの突き上げがあり、強硬に出ざるを得なかった。8月には日本人活動家らによる尖閣上陸があり、それまで台湾の活動家の行動を抑えてきた馬英九政権がメンツをつぶされたことも大きい。
 台湾の抗議漁船団が尖閣周辺に押し掛け、親日的な台湾の激しい意思表示に日本が動揺した。台湾はその動揺を見て、値段をつり上げたかもしれない」


 ―それでも、協定を締結する価値はあったのか。
 「価値はあった。予算オーバーかも知れないが、日本がアジアで孤立しないためにも、台湾との絆の維持は重要だった。
 尖閣をめぐって現在、日中の力が拮抗しつつある。台湾を日本の側に引きつけておくことは国益上必要だったし、地域の安定の上での日本の責任でもあった。
 中国の論理は『尖閣は台湾のもの、台湾は中国のもの』という二段構えだ。尖閣問題を台湾統一に利用したいという思いがある。しかし日台漁業取り決めで中台連携は否定された。そこで、今度は沖縄の帰属を問題にしはじめた。中国の焦燥が感じられる」


 ―吉村さんは、トランスアジア航空の定期便就航は、漁業交渉で譲った日本に対する「返礼」だと指摘しているが。
 「漁業の譲歩で波をかぶった八重山の不満を、観光振興でまろやかにしたいという台湾側の思いが反映されていることは、与党・中国国民党の幹部から聞いた。(八重山としては)台湾という2300万人の観光市場が目の前にある。マグロで譲った分は、観光で取り戻そうという発想も必要だ。台湾の経済水準は低くないし、人々は目も舌も肥えている。せっかく石垣に来ても、十分に魅了できなかったら二度と来なくなる。
 その意味では、定期便が就航したのに、石垣市の受け入れ態勢はやや気迫に欠けていないだろうか」


 ―しかし、日台の漁業者はぎくしゃくした関係になっている。
 「台湾側に漁業でルール順守を徹底してもらうことは大前提だが、20年前は台湾に日本統治時代を知る漁業者があり、漁場でも八重山の漁業者と片言で意思疎通ができた。現在では世代交代し、言葉が通じなくなっている。日台の歴史的絆が切れかけている。相互の漁業者が、簡単な会話程度は相手側の言葉を学ぶ努力があってもいい、例えば無料の日本語、中国語教室を開くのも一つのアイデアだろう」