古今の交響曲で最も美しいもの…

 古今の交響曲で最も美しいものの一つと言われる、シューベルト(1797~1828)の「未完成」。暗黒の世界に沈み込むような低音の主題で静かに始まり、いつの間にかわき出した美しいメロディが、全身を陶酔させる◆魂を揺さぶるこの音楽は、わずか25歳の作曲家によって書かれた。交響曲は通常、4楽章で構成される。この曲は第1、第2楽章まで完全な形で出来上がったが、なぜか第3楽章の途中で放棄され、未完成のまま残された。再発見され、初演されたのは1865年。作曲家の死後、37年もの歳月が経過していた◆シューベルトほど悲運の作曲家も珍しい。ありあまる才能に恵まれ、晩年にはさらなる新境地を開拓。しかし周囲に理解されず、新作の交響曲は「演奏不可能」と突き返される有様だった。めげずに研鑽を積み、作品がさらなる高みに達しようとした矢先、病に倒れ、わずか31年の生涯を閉じた。まさに人生も「未完成」だった◆しかし短い人生にもかかわらず、彼が残した作品は膨大な数に上る。没後200年近く経た現在も、尽きせぬ泉のように、私たちに生きる希望を与え続けている◆1年サイクルで出ては消える最近のベストセラーやヒット曲のむなしさ。天才の業績とは、時間が経つほど輝きを増すものだ。