イタリアの名テノール歌手…

 イタリアの名テノール歌手、ルチアーノ・パヴァロッティが2007年の9月6日に死去して6年になる。ヴァイオリニストのギドン・クレーメルの回想録によると、パヴァロッティはリハーサルの発声練習のとき「ゴールド(黄金)」とつぶやいたとか。高額なギャラのことが頭をよぎったのだろうか◆芸術活動がなかばビジネスと化している例は珍しくない。そういう人たちの仕事は大衆からもてはやされるが、やはりどこか冷たさを感じさせる◆帝王と呼ばれたスター指揮者、ヘルベルト・フォン・カラヤンの演奏は現在でも多数のファンを持つが、精神的な深みに欠けると評されることも多い◆彼が指揮したベートーヴェンの「運命」を聞くと、オーケストラは豪華な音でガンガン鳴るのだが、それ以上に訴えかけてくるものが少ない。カラヤンより一世代前の指揮者、フルトヴェングラーの演奏は、テンポの揺らしが独特で、ドラマチックだ。録音の古さにもかかわらず、いかにも「運命」という曲らしき物々しい雰囲気がある◆大衆受けすることと芸術性の高さが反比例するとは言わないが、少なくとも、圧倒的多数の大衆に支持されるということは、すでにその時点でいかがわしさがある。真の価値は賛否両論の中にこそあるのではないか。