八重山分断の正当性は 中国も「反日」に利用 竹富町の採択協離脱

八重山採択協議会からの離脱を表明する竹富町教育委員会の記者会見と、周囲を取り巻く記者たち(11日)
八重山採択協議会からの離脱を表明する竹富町教育委員会の記者会見と、周囲を取り巻く記者たち(11日)

 教科書問題で竹富町が11日、八重山採択地区協議会からの離脱を表明した。予想されていたとはいえ、八重山の教育界に与えた衝撃は大きい。これが認められれば、今後の教科書採択で八重山は分断されることになるからだ。竹富町に、そこまでしなくてはならない正当性はあるのか、率直に疑問を感じる。これまでの経緯を見ていると、不毛なイデオロギー闘争を引き起こし、教科書問題の混乱に拍車を掛けた張本人こそ竹富町だからだ。

 

 

 ▽先手打った離脱表明
 八重山の教科書採択には、石垣市、竹富町、与那国町の3市町でつくる採択協が教科書を選定するというルールがある。2011年の中学校公民教科書採択では育鵬社版が選ばれ、石垣市、与那国町は協議会の結論通り育鵬社版を採択したが、竹富町はこれに反発し、従来から採択されている東京書籍版を再び採択した。


 次回の中学校教科書採択が来年に迫っているが、竹富町は恐らく、来年の採択協でも育鵬社版が選定される可能性が高いと踏んだのだろう。先手を打って離脱を表明したように見える。


 背景には、9日成立した教科書無償措置法改正で、従来は「市郡」単位で構成するとしていた採択地区が「市町村」単位に改められたことがある。県教育委員会は町の要望を受け、来月にも離脱の是非について結論を出す方針だという。


 これが認められれば、竹富町は今後、他の2市町と離れて独自に教科書を採択することになる。百冊に及ぶ膨大な教科書を調査研究するため、町は今後、単独で採択協を設置するのだろうか。あるいは地域性も全く異なる宮古や沖縄本島の採択協に「仲間に入れてほしい」と懇願するのだろうか。
 いずれにせよ「八重山は一つ」という3市町の合言葉に逆行し、コスト的にも町民に余計な費用を負担させかねない不合理な決断だ。八重山がイデオロギーによって分断される危機だとも言える。


 ▽育鵬社版の問題点?
 竹富町が離脱表明に至った理由は「育鵬社版を採択したくないから」の一言に尽きる。しかし、育鵬社版とはそのように有害な教科書なのだろうか。
 「新しい歴史教科書をつくる会」が執筆した自由社版と、日本教育再生機構のメンバーが執筆した育鵬社版は、ともに反対派から「右翼の教科書」「保守色が強い」などと批判されている。


 その主な理由は、自衛隊の役割を高く評価していることと、尖閣諸島(石垣市登野城)の領有権が日本にあることを詳しく記述していることにある。憲法改正も必要があれば行うべきという立場だ。


 一方の東京書籍版には、自衛隊は憲法違反であると匂わせる記述がある。尖閣が日本の領土であることには、ほとんど触れていない。


 育鵬社版の反対派と同じ土俵に立って、東京書籍版を「左翼の教科書」「革新色が強い」と批判することも十分に可能なのだ。要するに程度の差である。


 教科書改善の会によると、2011年の教科書採択の結果、育鵬社版は全国で4万8千冊以上が使用されており、シェアは3・7%(教科書会社7社中5位)。2012年から使用している石垣市、与那国町を含め、全国で問題が起きたという事例は報告されていない。


 例えば受験生が不利になるなど、内容に偏りがある教科書であれば、そもそも文科省の教科書検定を通過するはずがない。


 反対派は「教科書検定そのものがおかしい」と主張するかも知れないが、竹富町が使用している東京書籍版も、同じ検定を通過した。


 「教科書は内容が問題だ」とは竹富町教委の言い分だが、育鵬社版の内容に客観的な問題は存在しないと言うほかない。つまり東京書籍版の採択を死守する竹富町の「戦い」とは、イデオロギー闘争以外の何物でもない。


 ▽中国は竹富町「支持」
 竹富町が採択協を独自に設置するなら、その費用は町民が負担する。町内の教員に教科書の調査研究を委嘱しようにも、どこも小規模校で余裕がなく、現実的には難しいだろう。


 琉球大の高嶋伸欣名誉教授は県紙で「教科書研究はほかの採択地区と共同ですればいい。問題となりそうな公民や歴史だけ除く手もある」と提案しているが、それは、ご都合主義が過ぎるのではないか。


 教科書研究を八重山採択協と共同でやるなら離脱する意味がないし、宮古や沖縄本島と一緒になるなら、町の子どもの教科書を、よその地区に選んでもらうことになる。こうした問題を引き受け、なお八重山を分断しなくてはならない正当性が竹富町にあるのか、ここで再び問わなくてはならない。


 竹富町の教科書問題は今や世界的な話題だ。米国のニューヨークタイムズに取り上げられ、中国メディアも「安倍政権の歴史修正主義の表れ」と日本政府を批判。竹富町を支持している。


 問題になっているのは歴史教科書ではなく、公民教科書なのだから、的外れな批判だ。竹富町の意図はどうあれ、町の行為は、このように他国で反日キャンペーンに利用されている現実がある。


 とりわけ、中国メディアが竹富町に肩入れしている意味は大きい。尖閣強奪を狙う中国にとって、ほかならぬ八重山で、育鵬社版をかたくなに拒否してくれる竹富町は、都合がいい存在なのだろう。国際社会は、このようにシビアだ。竹富町はさらに、文科省の是正要求に従わないことも表明した。町も、町を支持する人も、自分がどこへ向かっているのか冷静に考え直すべき時だ。(仲新城誠)