米国のある富豪は…

 米国のある富豪は、1日のうち一定の時間を思索に当て、一室に引きこもるという。思索のあと、彼はやおら部屋から出て電話を取り上げ、部下にビジネスに関する的確な指示を出す。そして富豪の財産はさらに増えていく◆どんなに多忙であっても、1日1回、一人になって思索に集中できる時間を持つことが本来は望ましい。しかし最近、意外なことに気づいた。思索に集中しようとしても、できないのである。老いて集中力が衰えたというだけではない。仕事、生活、人間関係など、雑念が次から次と湧いて出て、精神の統一を持続できないのだ◆ヨガや禅の瞑想などを傍から見ていると、目を閉じて座っているだけなら何の苦もない、と勘違いしてしまう。しかし実際には、何もせず座っていることが大変な苦痛なのだ◆思索や集中というのも一つの訓練であり、毎日の多忙さの中で置き忘れていると、その力が確実に衰えていくことを知った◆あるテレビ番組で、瞑想中、雑念が湧いた場合はどうするか問われた禅僧の答えを思い出す。彼はこともなげに「受け流す」と言った。集中とは雑念がないことではなく、雑念を何らかの方法で克服することだ。雑念とは心の闇であり、放っておくと体ごと吸い込まれるブラックホールなのだ。