2015年

3月

09日

「勧酒」という有名な漢詩がある…

 「勧酒」という有名な漢詩がある。友人に酒を勧め「花発(ひら)けば風雨多し/人生別離足る」と別れを惜しむ場面だ。「サヨナラだけが人生だ」とも訳された。進学や異動などで別れの季節といわれる3月は、この名文句を思い出す人も多いだろう◆若いころは別れの寂しさを噛みしめながらも、新たな出会いへの期待に胸を膨らませることができた。しかし年老いてくると、人生は別ればかりのような気がしてしまう。老年になると活動範囲も限られ、出会いも少なくなってくるせいだろう◆固い絆で結ばれてきた家族、友人たちが徐々に身辺から消え、最後にはかく言う自分もこの世に別れを告げる。どんなに愛する人であっても、永遠に一緒にいることはできない。仏教では愛する人との別れを「愛別離苦」と呼び、人生の苦悩のうちでも特に大きなものの一つに挙げる◆しかし逆に考えると、いつかは別れなくてはならないからこそ、大切な人と過ごす今が、かけがえのない時間だと知る。「あんな冷たいことを言わなければよかった」「感謝の気持ちを素直に伝えたかった」と、あとで後悔しても始まらない。つまらないけんかや、意地の張り合いに費やす時間はない◆今を誠実に生きたい。「勧酒」を口ずさむたび、そんな思いが胸をよぎる。